MURS “THE END OF THE BEGINNING”

LIVING LEGENDS、RHYMESAYERS、DEF JUXという、今のアメリカで最も影響力のある3つのクルーの橋渡しをしつつ、それらのサウンドを分かりやすい形で提示するなんて、正にMURSにうってつけだ。”SLUGなら”と言われそうだが、MURSは、例えば2 PACなんかが好きなリスナーにもアピールするし、EL-PやELIGHにはない分かりやすさと親しみやすさがある。

ファンへの感謝の気持ちだとか音楽にまつわる政治への憤りなどを正直に吐露する”YOU AND I”や”GOT DAMNED?”辺りには、更にファン層を広げたいと言う願望がありつつも、そうする事でファンとの関係性が変化してしまう事への寂しさのようなモノが滲み出ている。ここまで正直に自らの思いをリスナーに告白したMCなんて、殆どいないよね。ドープ!

それ以外では、ギャングでなくとも常に身の危険が付きまとうL.A.のストリートの実情を描く”THE NIGHT BEFORE”、ヒップホップ史上あまり類を見ないスケーター・アンセム”TRANSITIONZ AZ A RIDAH”、労働賛歌”GOD’S WORK”、金の使い道に悩む”B.T.$.”などなど、トピックには事欠かない。ユーモアって意味では、AESOP ROCKとの与太話”HAPPY PILLS”は最高だし、DIGITAL UNDERGROUNDのSHOCK G & HUMPTY HUMPが参加した”RISKY BUSINESS”なんて、好き者には堪らない出来だ。

ビートでは、やっぱりDEF JUX勢との共演が目玉となるのだろうが、どれも引き気味でマジックはない(EL-Pの”DEF COVER”は、彼のキャリアでも最低のレベルだろう)。それよりも、ANTやBLOCKHEADとの相性の良さや、ソウルフルなネタ使いや堅くへヴィーなドラムが素晴らしい、アルバムのキーとなるトラックを手掛けたBELIEFの特筆すべき仕事振りなどを聴くにつれ、MURSにはこうした泥臭い暖かみのあるトラックがやはり最高に似合うと再確認。BELIEFによる3曲”WHAT DO YOU KNOW?”、”GOD’S WORK”、”BROTHERLY LOVE”はとにかく最高で、彼には今後注目が集まる事間違いなし。MUM’S THE WORDも、アルバムの締めくくりに素晴らしいトラックを提供している。スムース!

前作”MURS RULES THE WORLD”が、統一感はあるが楽曲の質が低かったのと対照的に、この”THE END OF THE BEGINING”はそれぞれの楽曲の良さが光っている。それに、様々なタイプのビートのお陰で、今までのアルバムの中で最も取っ付き易いアルバムなんじゃないかと思う。それがMURSの狙いだったろうし、そういう意味では、大成功と言って良い。