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NON-PROPHETS “HOPE”

SAGE FRANCISとJOE BEATSのユニット、NON-PROPHETSのデビュー・アルバム。

今回のSAGE FRANCISは、切ないラブ・ソング”THE CURE”などの数曲を除いて冷静なまでの自己分析は鳴りを潜め、殆どの楽曲がヒップホップに間する意見で占められている。80年代後半から90年代前半のヒップホップに対する愛情や、現代のヒップホップが置かれる状況に対する危惧を、クラシック・ジャムからの直接的な引用を多用しつつ、SAGEらしい皮肉っぽい言い回しや捻くれたユーモアを盛り込んでライムする。ソロ・デビュー作”PERSONAL JOURNALS”では、実に冷静な客観的視点で自らを描き切ったSAGE、本作ではその矛先をヒップホップに向けた、といったところか。ヒップホップが純粋に楽しみであった時代の価値観を引き戻そうという願望の表れか、フックも合唱系が多いし、ソロ・アルバムよりも一般層にも受け入れられやすいであろう。

相棒JOE BEATSの方も、自らのソロ・アルバムで披露したようなムーディーな作風は封印し、アップテンポな”黄金期のヒップホップ・サウンド”の再現を試みているかのようなサウンドを聴かせてくれる。こちらもPUBLIC ENEMY、BIG DADDY KANE、X-CLANなどの声ネタをフックなどで多用。こういったスタイル自体、ある種の懐かしさを漂わせている。

SAGE FRANCISとJOE BEATS、それぞれのソロ・アルバムが自己との会話だったとすれば、この”HOPE”は他者とのコミュニケーションといった趣。閉鎖的で内省的という先入観を拭うように、どこかNATIVE TONGUE的なオープンな印象さえ感じさせる楽しいアルバムになった。

SAGE FRANCIS “PERSONAL JOURNALS”

SAGE FRANCIS、正に待望のオフィシャル・デビューアルバムが遂にリリースされた。マトモなアルバムもなしに、ココまで注目されたラッパーも珍しいだろう。これまでに、彼のバンドART OFFICIAL INTELLIGENCEやJOE BEATSとのNON-PROPHETSでのリリースはあったが、ロード・アイランドから現れたこの屈折したリリシストの名を世界的なモノにするのに最も貢献したのは、スクリブル・ジャムでのMCバトル・チャンプという冠である事は疑う余地がないが、ANTICONの強力なバック・アップを受けたこの”PERSONAL JOURNALS”で彼は、フリースタイル/バトルMCとしてだけではなく、リリシストとして最大限のリスペクトを受けるだろう。

彼のリリックは時に複雑で個人的。”DIFFERENT”の「俺は他と違う、違った意味で/変わらないのは変化だけ」という一節や、引き出しにしまわれた手紙の物語”MESSAGE SENT”、”CUP OF TEA”での存在しない話し相手、直接的な”RUNAWAYS”などで垣間見える彼の孤独感は、妹との別れを後悔する”INHERITED SCARS”、幼い頃の母親との関係をライムする”BLACK SWEATSHIRT”などで綴られる子供の頃の体験が原因なのだろうか。それとも、”PITCHERS OF SILENCE”、”SPECIALIST”で赤裸々に語られる女性関係に端を発する自己嫌悪か。ともかく、一見感情的なSAGEは実の所、非常に客観的だ。歪んだユーモアは、”EVICTION NOTICE”、”KILL YA MOMZ”に集約される。

プロダクション面では、ANTICONのコンピレーション”GIGA SINGLES”にも収録されていた、DJ MAYONNAISE手掛ける”INHERITED SCARS”がやはり突出している。最も多い曲数を手掛けたSIXTOOや期待のJELとのコラボレーションは思ったより地味だが、SCOTT MATELICによる澄み切った冬の空といった趣の”BROKEN WINGS”や、哀愁漂うALIASとの”MESSAGE SENT”、相棒JOE BEATSがなんとも美しいメロディを聴かせる”RUNAWAYS”など、メロディアスな曲に良いモノが多い。

お馴染みのスポークンワードやライヴ音源だが、このアルバムでは逆効果。”SICK OF WAITING”シリーズでは楽しめたこういった曲は、ココではアルバムの統一感を損なうだけの存在になってしまった。が、それでもこのアルバムは期待に充分応えうるクオリティを誇っている。去年から最も期待されていたアルバムの一つであろう”PERSONAL JOURNALS”、待った甲斐はあった。

SAGE FRANCIS “SICK OF WAITING TABLES…”

ローズ・アイランドのSAGE FRANCIS。いい加減ソロ・アルバムを出して欲しいところだが、それはさて置き、本作は基本的に”STILL SICK”と同じ構成。つまり新曲、既発曲、フリースタイルだ。

期待の新曲だが、ALIASのプロデュースによる”TRITE”がベストだろう。とにかくドープなトラックにSAGEのアグレッシヴなフロウが映える。SOLEとの”I APOLOGIZE”も、勢いのあるトラックがドープ。”DAYS GROW OLD”はSLUGとの初共演だが、結果はイマイチだ。次のMOLEMENのアルバムに入るという”THE EMPEROR’S NEW CLOTHING”と”COME FOLLOW ME”の2曲はどちらもワン・ヴァースのみ(曲自体まだ未完成らしい)で、タイトだがやはり欲求不満な感じかな。完成を待ちたい。

既発曲では、NON PROPHETSの12インチから”DROP BASS”とダークな”I KEEP CALLING”、A.O.I.からは、かつての彼女への文句を連ねた”REWRITE”、とにかくドープなライブ音源”BOUNCE”、JAYSONICのアルバムからの”INTUITION”、”WHEN FREEDOM RINGS”と”TESTIMONY”はSIXTOOの、アルバムと12インチにそれぞれ収録されていた曲だが、いつ聴いてもドープだ。

今回もやはり、フリースタイルがハイライトになっている。2パートに分けられた”ORPHANAGE FREESTYLE” は、AESOP ROCK、EYEDEA、SLUG、ILLOGIC、BLUEPRINTにSAGEというオールスター・キャスト。全員がリラックスした雰囲気の中、余裕のフリースタイルを聴かせてくれる。オリジナルのテープに収録されていたUNDERGROUND KIDとのバトルの抜粋はとにかく笑える。名勝負だからではなく、あまりにワックなUNDERGROUND KIDが面白すぎる。哀れである。

聴き応えのある内容ではあるものの前作ほどの充実度は、ココにはない。散漫さと生々しさは紙一重、という事か。ANTICONからのオフィシャル・アルバムが本当に待ち遠しい。それまでは、これを聴いて我慢するしかないか。

SAGE FRANCIS “STILL SICK… URINE TROUBLE”

東海岸はロード・アイランド出身、SAGE FRANCIS。2000年のスクリブル・ジャム、MCバトルのチャンプとして名高い彼は、プロデューサーのJOE BEATSとのグループNON PROPHETSに、生バンドを従えたA.O.I.という2つのユニットの顔でもある。この自主CDは、NON PROPHETS名義で出した2枚の12インチや、フリースタイル等を収録した物で、アルバムではない。CD-Rであるため当然のごとく音質は悪いが、どれも必聴の代物ばかりである。(因みに、インナースリーヴには本人の物と思しきサインとイラストが…)

シンプルなトラックでSAGEが跳ねる”THE TIME OF MY LIFE”、哀愁漂うビートに”MAJORITY RULE”は、トラック、ライム共にクソドープで、これがベスト・トラックだ。ファンキーなギターにラウドなドラムがドープな”EYE OF THE TIGER”、ヒップホップの基本に忠実なところを聴かせる、ジャジーな”ALL WORD, NO PLAY”、やたらキャッチーな”WHORE MONGER’S SING ALONG”、ダークなトラックがドープな”COME COME NOW”(「現在と愛し合え/過去はファックしろ」)、タイトルが全てを物語る”ANDY KAUGHMAN”等など、どれもドープだ。それにしても、”KFC”は面白すぎる。このガキ、マジらしい。

フリースタイルモノでは、8分に及ぶAPATHYとのフリースタイルが最高。完全即興とは思えない程の自然な掛け合い、歪んだユーモア、全てが素晴らしい。とにかくドープ!SLUGとのフリースタイルも素晴らしく、貫禄だ。ポエトリー・リーディングの大会、SLAMでの模様を収録した”MULLET”は、SAGEのヒップホップ観をその出会いから、ユーモアたっぷりに語っていて、我々のようなヒップホップを”選んだ”人間にとって、非常に感慨深い内容だ。「ヒップホップは白人に操られたブラック・アート/丁度、ロックンロールと同じ様に…..」、まるでフリースタイルのようなその語り口も素晴らしい。

手元にある曲を無造作に放り込んだ様なモノだが、その生々しさがこの作品の最大の魅力になっている。とにかく、SAGE FRANCISのラップが素晴らしい。柔軟なデリヴァリーにタイトなライム、高度なフリースタイル・スキル、自虐的で捻くれたユーモア。あらゆるヒップホップ・ジャンキーにとって、必聴だ。

オムニバス “ANTICON - GIGA SINGLES”

ANTICONの、レーベル・コンピ第2弾。

まず、ベスト・トラックはなんと言っても、SAGE FRANCISの”INHERITED SCARS”だ。DJ MAYONNAISEによるホーン・ループがドープなトラックもそうだが、やはり主役はSAGE。柔軟なデリヴァリーにエモーショナルなライム。とにかくドープで、この一曲のためだけにも、このアルバムを買う価値はある。次は、SOLE、DOSEにALIASというANTICONの顔が集った”WE AIN’T FESSIN”。彼ららしからぬ爽やか(!)なトラックで、特にDOSEがその歌うようなスタイルを最高の形で聴かせてくれる。DOSEの「ヒップホップ・ミュージックなんだぜ/痺れさせてくれよ」という一節に全てがある。THEM改めTHEMSELVESの、やたらとマッドな”MY WAY OUT OF A PAPER BAG”は、DOSEの独壇場だ。後半のエスニックな展開も含め、病んでいる。ALIASの”WATCHING WATER”も、タイトなドラム・ブレイクに美しいピアノがドープ。深すぎる。BUCK 65は”PEN THIEF”は、彼の水準レベルだが、SIXTOOの”GRIMEY INKS THE MOMENT”は、ドープ。ドラムが跳ねまくっている。

DOSEの変態的な要素だけを培養したようなスタイルのWHY?とPEDESTRIANによるOBJECT BEINGSの”ATTACK OF THE POST MODERN PAT BOONES!”は、とにかく人をナメたようなヴォーカル・スタイルがドープだ。WHY?のソロ”YOU’LL KNOW WHERE YOUR PLAIN IS…”もそうだが、最も好き嫌いが分かれるスタイルだろう。個人的には嫌いじゃないが、今後どれだけ幅を見せれるかが鍵だろう。SOLEの”SILENCE”、BUCK 65、SIXTOOに続きカナダからANTICONに加わったJOSH MARTINEZの”OUTLOOK”の2曲は”アルバム中の一曲”と言った感じで、しっくりこない。

前作と比べると、全体の質が落ちているのは否めない。特に、後半にかけてだいぶテンションが落ちてくる。いい曲も当然あるものの小粒な曲が大半を占め、それらがこのアルバムの印象を薄めてしまっている。まあ、ANTICONらしいといえばらしいが….よく分かりません。

オムニバス “ANTICON - HIPHOP MUSIC FOR THE ADVANCED LISTENER”

アメリカはとにかく広い。そんな分かりきった事を、このコンピレーションを聴いていて実感させられた。ヒップホップは好きだがどこにも居場所がない、そんな連中が集まって凄いコンピレーションを出した。ANTICONだ。

まず、ポッセカット。SLUG、SOLE、DOSE ONE、ALIASによるユニットDEEP PUDDLE DYNAMICSの”RAINMEN”は、シンプルなトラック上でのマイクリレーがドープ。RAKIMの一節を引用しながら登場するSLUGがやはり貫禄だ。そのSLUGのクルーRHYMESAYERSの若手EYEDEAが、正に地球上の物ではないイルなラインを聴かせる”SAVIOR?”、SHAPE SHIFTERSのCIRCUSが圧巻の”HOLY SHIT!”辺りがハイライト。

SEBUTONESとしても知られる、カナダのベテランBUCK 65とSIXTOOはそれぞれソロ曲を提供。2人ともマイクだけでなく、トラック面でも非凡なところを聴かせてくれる。ラッパーのDOSEとプロデューサーのJELによるユニットTHEMの”IT’S THEM”は、変則的なドラムの打ち込みと、それを至って自然に乗りこなすDOSEが凄まじい。駄目な人にはとことん駄目だろうが、一度ハマると病みつきに。ベストカットは、ALIASの”DIVINE DISAPPOINTMENT”だろう。神の視点からのライムと共に、ALIAS自身の手掛けるトラックもドープだ。ATMOSPHEREのSLUGといえば、その最大の魅力であるエモーショナルな語りを”NOTHING BUT SUNSHINE”でも堪能できる。両親の死についてのライム。SOLEの”MARTYR THEME SONG”は、彼の以前のグループLIVE POETSのDJ、MOODSWING9がドープなトラックを提供、SOLEも快調に飛ばしている。

ANTICONのサウンド面を担うDJ達によるインタールードもタイトで、スクラッチもいい味を出しているし(特別どうこういう程じゃないけど)、アルバムを一つにまとめるのに一役買っている。

とにかく、強烈なオリジナリティが全体に漂う、凄いコンピレーション。確かに癖が強い連中なので、拒否反応を示す人も多いかもしれないが、ヒップホップの本質を理解している人なら、虜になるだろう。彼らはただ”自分に正直”なだけだ。ヒップホップってそういうものでしょ?