MR. LIF “I PHANTOM”

これまでのシングルやEPは結構質にバラツキがあったので聴く前は一抹の不安を覚えたのも事実だが、アルバムを聴き進むにつれ、そんな不安は吹き飛ぶ会心の出来だ。MR. LIF、待ちに待ったデビュー・アルバム。

MR. LIFがVAST AIREから銃を手に入れる”INTRO”から、崩壊後の地球を描く”POST-MORTEM”まで、アルバムでは様々なストーリーが語られる。武装強盗の末、銃弾に倒れる”A GLIMPSE AT THE STRUGGLE”、ヒップホップによって蘇り、そのヒップホップを逆に蘇らせる2部構成の”RETURN OF THE B-BOY”という緊張感溢れる冒頭の2曲から、9時5時仕事のナンセンスさをライムするユーモラスな”LIVE FROM THE PLANTATION”までの流れは完璧だ。個人的なベストは、家族を顧みない父親の視点を語る”SUCCESS”。AESOP ROCKは子供の視点をフックで繰り返す。

アルバムを締めくくるのは黙示録的な2曲、核による世界の滅亡を描いた”EARTHCRUSHER”と、最後の瞬間に向けて4MCが言葉を残す”POST MORTEM”だ。特に”POST MORTEM”では、強力なMCを迎えながらMR. LIFはラスト・ヴァースでこれが誰のアルバムかを思い出させてくれる。

プロダクション面ではEL-Pがほぼ半数を手掛けていて、こちらの期待に見事に応えてくれる。フラットなMR. LIFのデリヴァリーを最大限に活かすドープ・ビーツ満載だ。”SUCCESS”が特に気に入った。オーソドックスなINSIGHT、相変わらずのミドルスクール・フェチ振りを聴かせるEDANらのトラックも、良いアクセント。FAKTS ONEのプロダクションは正直これまで好きではなかったのだが、疾走するドラムがタイトな”FRIENDS AND NEIGHBORS”は悪くない。

個人的には、これまでの音源も収録した集大成的なアルバムになると思っていたのだが、彼にそんな手抜きは全く必要なかったようだ。今までは何故2枚もEPを出したのか少し疑問に思っていたのだが、コンセプト・アルバムと言っても良いこの”I PHANTOM”を聴き終えてみて、少し理解できた気がする。様々なトピック、ドープなビート、貫禄のアルバムだ。