CRYPTIC ONE “THE ANTI-MOBIUS STRIP THEORY”

ATOMS FAMILYのMC/プロデューサー、CRYPTIC ONEのソロ・デビュー作。

CRYPTIC ONEのプロダクションはプログレ・ロックの影響を強く感じさせるモノで、ギターやキーボード、ハープ、ストリングスなど様々なサンプルを巧みに配置し、独自の世界観を構築していて、唸らされる。ドラムの打ち込みはシンプルだが、細かい細工にハッとさせられる瞬間もあり、細部に渡って実に丁寧な仕事振りだ。アルバムは黙示録的と言うか、宗教的な壮大さすら感じさせるトーンで貫かれていて、外部プロデューサーもアルバムの雰囲気を忠実に守っている。BLUEPRINTは”INTRICATE SCHEMES”で素晴らしいトラックを提供しているし、BLOCKHEADも”CYCLE”3部作で地味な小品ながら印象的な彼らしいサウンドを聴かせてくれる。

このアルバムが傑作たる所以、それはリリシストとしてのCRYPTIC ONEの力量だ。豊富な語彙、ドープな比喩、知的なコンセプト。どれもが素晴らしく、フラットなデリバリーといった欠点を忘れさせてくれる。自問自答、鬱積する不満、感謝へと移行する”ANTI-MOBIUS STRIP THEORY”、人生を分析してみせる”HALF-LIFE”、死後の世界に思いを馳せながら現世での自らを省みろと促す”LIFE AFTER”など、「人生とは?生とは?死とは?」という問い掛けと彼なりの答えがある。堕天使の物語”INTRICATE SCHEMES”や、水、金塊、雑草それぞれの数奇な運命を描く3部作”UNICYCLE”、”BICYCLE”、”TRICYCLE”では、見事なストーリー・ラインを構成する。

実力者が集うATOMS FAMILYの中でも、最もオールラウンドな才能の持ち主はCRYPTIC ONEだろう。プロダクション、リリック、コンセプト。アルバム全体の構成の素晴らしさも、彼のアーティストとしての能力の高さを示している。必聴。