EDAN “PRIMITIVE PLUS”

80年代後半の、俗に言う黄金期のヒップホップからの影響を公言するアーティストは数多いが、その音楽にEDANほどその思いをあからさまに打ち出すアーティストは珍しい。ラップ・スタイルからビート、フックでの声ネタ、ヴォーカル・エフェクトに至るまで、ULTRAやMARLEY MARLがフレッシュだった頃の空気感を見事に再現している(初期のCOLD CHILLIN’の影響が特に強いように感じる)。

そういった彼の嗜好が最も端的に出ているのが、曲名が全てを語る”ULTRA ‘88 (TRIBUTE)”だろう。ココまでモロにやるのもどうかと思うが、KOOL KEITHの物真似も堂に入っているし、古くからのリスナーなら嫌いにはなれないだろう。”MIGRAINE”の冒頭でも”黄金期に引き戻すぜ”と言っているし、”SYLLABLE PRACTICE”や”#1 HIT RECORD”では、しつこく黄金期の彼のアイドル達の名を連呼している訳だから、彼は本気なのだろう。インターネットを批判する”KEY-BORED”や、捻くれたユーモアなどは現代的と言えるかもしれない。

トラックはどれも高水準。クラシカル・ピアノ使いの”KEY-BORED”、ヒューマンビートボックスを上手く使った”YOU SUCK”、日本の童謡をネタにした”SING IT SHITFACE”などはオリジナル。ストレートな”MIGRAINE”や”RAPPERFECTION”、レア・グルーヴ”EMCEES SMOKE CRACK”辺りもドープだ。

決して傑作アルバムとは呼べないものの、この”PRIMITIVE PLUS”には何とも言えない魅力がある。ライムスキルはタイトだし、トラックもドープだ。もう少し独自性が加われば、唯一無二の存在になるだろう。まだ懐古趣味の域を脱していない面は否定できないが、このアルバムをきっかけに原点を探ろうとする若いリスナーが増えれば、それはそれで意味のある事だろう。