GRUF “DRUIDRY”

FREK SHOやFERMENTED REPTILEといったグループでも活躍するGRUF THE DRUID。PEANUTS & CORNのコンピレーション”SECOND FACTORY”でも頭一つ抜け出た楽曲を提供していたのも記憶に新しい。待望のアルバム・デビュー。

正に氷河期の様なトラックの”ICE OF AGE”で幕を開けるアルバムは、GRUFの類稀なリリシストとしての才能改めて認識させてくれる。続く”OUT OF THE TRAFFIC INTO THE FRESH GOODIES”は、MCENROEのトラックがドープで跳ねるドラム、中盤から遅くなる構成、全てが素晴らしい。カナダの美しい自然が目に浮かぶ様な”AMONGST THE TREES”に”THE OWL”も良いが、”AWAKENING”はGRUFの幻想的な物語がとにかく素晴らしく、ストーリーテラーとして非凡な所を聴かせてくれる。美しいプロダクションも特筆モノだ。宇宙人との奇妙な遭遇を描いた”TRUST YOUR SENSES”等でもそのストーリーテラーぶり発揮している。勿論、彼にとって重要な要素である社会批判的な曲も忘れてない。動物の視点から彼らの苦しみをライムする”WINNING THE RACE”、グローヴァル社会における貧富の差を皮肉った”VALLEY HO”、森林破壊がどうとかそういった感じではなく、より身近な視線で植物が人間の生活にとってどれほど大きな役割を果たしてきたかをライムする”THE PLANTS”等など。琴のような楽器をループした東洋的なトラックが良いな”PAYDAY”、JOHN SMITHとPIP SKIDが参加した”TOOTH AND NAIL”もドープ、息の合ったところを聴かせてくれる。

これまでも、オリジナリティ溢れる奇才ぶりを発揮してきたMCENROEのプロダクションスキルは、今までと路線は変わらないが、ウットリするほどの美しいメロディの数々は、これまでと比べ格段に質が上がっている。これまでイマイチ注目されてこなかったMCENROEのプロダクションだが、このアルバムでの仕事振りで彼の評価は確実の物となるだろう。仕事量が多いにも拘らず、依然高い質を誇っている所もリスペクトに値する。

個人的な意見だが、優れたヒップホップの魅力の一つに、それぞれのアーティストの土地の空気というか雰囲気が、手に取る様に伝わってくる所だと思っている。”百聞は一見にしかず”という諺もヒップホップにおいては通用しないとすら思えて来る程。その土地で生まれ育った人間にしか分からない何かを、共有しているような特別な体験をさせてくれる。このアルバムを聴いていて、その思いをさらに強くした。トラックも含めて、カナダという地の匂いまでもが伝わってくる様なアルバムだ。全ての、ヒップホップ・ヘッズ以外の音楽好きにも聴いてもらいたい作品である。