HIMSELF “PROVIDENCE PLAYS NO FAVORITES”

MURS、ANACRONと組んだユニット、NETHERWORLDのアルバムも記憶に新しいHIMSELFのソロが、お馴染みGALAPAGOSから届いた。予想通り、充実した内容だ。

最高のパーティーチューン”EVERYBODY DANCE”で幕を開けるアルバムは、ドープなビーツにポジティヴなライムが詰まっている。日々のタフな生活の中でも笑顔を忘れるな、と歌う”HARD TO SMILE”、冷酷なL.A.のストリートを描写する”ON A GOOD DAY”、”NOT MOVED BY IT ALL”(「どんな車に乗ってたって渋滞にはハマるんだぜ」)では、彼が金に興味が無い理由を挙げて物質主義を批判、”OCTOBER”では人生は短いんだから後悔の無い様強く生きろ、と諭す。ストーリーテラーとしても一流で、ヤクにハマっていく女性の物語を通してゲットーのライフ・スタイルをライムした”PEPPER MILLS”、所謂プレイヤーの物語”FLASH GORDON”は、ヤクに売春婦など典型的な”ブラック・ムービー”っぽい感じ。個人的な題材も歌っていて、シカゴの地下鉄にまつわる話”HOWARD TO 95TH”、「長い間泣いてなかったけど/昨夜泣いてしまった」と感情的に歌う”LAST MILES”、”ANDRE”はタイトルにもなっている、流れ弾にあたって死んでしまった彼の親友への感謝。”FRUSTRATED”では、自分の周りのストレス、友人などあらゆる事をライムする。どれも、彼の感情が手にとるように伝わってくるエモーショナルな名曲だ。ワックMCに怒りを露にする”WHAT ABOUT YOU”や、女ネタ”HOW DO YOU LIKE IT?”なども余裕でこなす。

多くのトラックを手掛けるANACRONのビーツも、ハウスにも通づる透明感溢れる音作りで独特の空気を醸し出す。冷たくも暖かい都会の雰囲気を表現したドープ・ビーツ。他にも、MOLEMENのPNSは”EVERYBODY DANCE”でドープなループを、WHITELIGHTNINGは”HOWARD TO 95TH”で最高のドラムを提供、アルバムに色を添えている。

オリジナルなビーツに、巧みなストーリーテリング、ポジティヴなメッセージが詰まった良質なヒップホップ・アルバムだ。極めてオーソドックスだが、質の高い芸術作品がココに又一つ。