
“GOT WHAT IT TAKES”や”DON’T PLAY”、”YES”といった、所謂バトル・ライムはどれも良いが、J-LIVEの真価はそこにはない。彼のリリカル・スキルが光るのは、一見使い古されたかの様な題材においてだ。例えば、”WAX PAPER”では2人の若者の犯罪ストーリーを豊かに描いてみせるし、あるラッパーの成功と挫折をライムした”THEM THAT’S NOT”、男女の関係をユーモラスに描写する”GET THE THIRD”など、スムースでジャジーなトラック上で彼のスリックなデリヴァリーが冴え渡っていて、最高にドープだ。”EPILIGUE”での言葉遊びも、彼が現在のベスト・ラッパーの一人である事を証明している。
トラック面では、ギターループが心地良い88 KEYSによる”DON’T PLAY”、徐々にピッチが速くなるGRAP LUVAの”THEM THAT’S NOT”、最高にスムースなCHRIS CATALYSTによる”TIMELESS”、DJ SPINNAのダークな”R.A.G.E.”などが聴き所か。”EPILOGUE”での、J-LIVE本人が手掛ける哀愁漂うトラックもドープ。PETE ROCKやDJ PREMIER、PRINCE PAULなどのベテラン勢が霞む充実した仕事振り。
待たされただけの事はある、充実したアルバムが届いた。スムースで心地良いトラックに、知的なライムが最高にマッチしている。これほどのアルバムが、レーベル側の政治的な理由でなかなかリリースされなかった事は、現在のヒップホップを取り巻く最大の問題点であるように思う。実際、そのままお蔵入りとなり日の目をみなかったアルバムも多いと聞く。だが何はともあれ、今こうして将来クラシックとして語られる事になるであろうアルバムが正式にリリースされた事を素直に喜ぼう。必聴の一枚だ。