MARS ILL “RAW MATERIAL”

日本のヒップホップ・リスナーにとって最も縁遠いのは、クリスチャン・ヒップホップと言われているモノだ。MAN CHILDとDJ DUSTのデュオ、MARS ILLは、そんなグループの中でも最も優れたグループの一つ。あからさまなキリスト賛歌はないものの、曲の端々に神に対する言葉が散りばめられている。それ程説教臭くもならず、この”RAW MATERIAL”はドープ・ビーツとライムが詰まったアルバムになっている。

ヴァラエティに富んだ19曲、質は高い。大物アーティストからのシャウト・アウトを交えた”MARS ILL”から、ヒップホップとは何たるかを語る”SPHERE OF HIP HOP”、ファンに捧げた”RAP FANS”、バトル・ライム”THE ABOLITION OF MANCHILD”まで、幅広いトピックをそつ無くこなしているが、”愛がどういうものかは知ってるけど/何が愛じゃないかを言った方が、上手く説明出来る”という”LOVE’S NOT”がドープだ。クリスチャンとしてのアイデンティティが最も如実に出ているのが、”TOUCH AND GO”だ。”曲を通して人生を語る時/俺らはマイクに触れ、キリストに触れる”、MARS ILLを象徴する一節だ。

相棒DUSTがほぼ全曲のプロダクションを手掛けている。”WHO WILL ANSWER?”での日本的なグルーヴが最も好みだが、シンプルなピアノ・ループが良い”MONOTONE”や”SOUNDS OF MUSIC”なども良い。SOLEなどを手掛けたSCOTT MATELICは3曲を提供、フルートも爽やかな”LOVE’S NOT”がベスト。

クリスチャン・ヒップホップと聞いていたのでもっと露骨な感じを予想していたのだが、意外に普通のヒップホップを展開している。その普通さが弱点でもあるのだが、良いアルバムではある。