GLUE “SECONDS AWAY”

ご存知SCRIBBLE JAMを二度も制したラッパーADEEM、THEM BADD APPLESのトラックメーカーであるMAKER、そしてシンシナティのDJ集団ANIMAL CRACKERSの一員であるDJ DQの個性的な3人によるスーパーユニットGLUE。

ADEEMの早口でトラックの上を自由自在に駆け巡るようなフロウは、ATMOSPHEREのSLUGと少し似ているがSLUGほど感情的ではなく、かつ力強さも兼ね備えているところがMAKERのトラックとの相性の良さを引き出している。MAKERのプロダクションはかなり質が高く、アルバムの中で惜しみ無く披露される無数のドラムパターンからは彼のプロデューサーとしての引き出しの多さを感じさせられる。そしてMAKERのトラックに見事に融合しつつ印象的なスクラッチを奏でるDJ DQの存在感は、DELTRON 3030におけるKID KOALAを彷彿させる。アルバムを通して聴くとMAKERのサンプル音かと思いきや、DQのスクラッチだったと気付くことが何度もあった。

3部構成の”WINNERS NEVER SLEEP”は特に素晴らしい。最初のパートでADEEMはボロボロになった自分の家についてライムし、「もう新たな愛を見つけるか生まれ変わるかしかない/部屋の電気は消えかけ/いつもの影が違って見える/床のきしみから悪魔が近づいてくる音が聴こえる/本を読む時一瞬は救われるけど、どの本にも最後のページが存在する/俺は序章を50回も読んだ。何かが変わることを望みながら」と歌っている。次のパートは一転してファンキーな3拍子のビートに変わり、DQの小刻みでリズミカルなスクラッチを交えながら、ADEEMはラップというよりもリラックスした口調で歌いながら心境変化を見せる。そして最後のパートでは「半年経ってやっと頭痛が消えた/俺は背を向けてきた色んなことに対して責任をとる/大人のふりをしてきたことを後悔してる」と振り返り、「この曲がどう思われようが俺の成功は約束されている」と見えてきた希望が次第に確信に変わってゆく様が描かれている。

他にも、LILYと名づけた愛車ホンダ・シビックに対する思いを語る”JUMP IN LILY”、エンディング曲に相応しい壮大なバイオリンのメロディーが耳に残る”HAUNT”など、捨て曲はほとんど無しと言っても過言ではない。アルバム全体を通して、GLUEという名の通りメンバー3人の個性は高いレベルで噛み合っている。

(Ais Duke)