VAST AIRE “LOOK MOM…NO HANDS”

CANNIBAL OXの”THE COLD VEIN”が”21世紀のILLMATIC”と言われるまでの高い評価を受けたのには、EL-Pの驚異的なプロダクションや相棒VORDULの燻し銀的魅力は勿論、VAST AIREのオリジナリティ溢れるデリバリーと独特の声の魅力に負う所が大きかった。待望のソロ。 “THE COLD VEIN”では、その特徴的な声が放つ魅力と共にリリカルな面でも驚異的な所を聴かせてくれていたが、本作はよりリラックスしたと言うか、悪く言ってしまうとリリック面では聴くべき点は少ない。ESOTERICを強烈にディスする”9 LASHES”辺りは野次馬的興味をそそられるが、彼の真価ではないだろう。そういった意味でも、ベスト・トラックは”WHY’SDASKYBLUE?”。既発曲ではあるが、CRYPTIC ONEも流石にVAST AIREの魅力を最大限に引き出す仕事を聴かせてくれるし、VASTのスピリチュアルなリリックも最高だ。あとは、DA BEATMINERZが彼ららしい埃っぽいトラックを用意したポッセ・カット”POSSE SLASH”、JUGGAKNOTSのBREEZLY BREWINが相変わらず光る”LIFE’S ILL PT. Ⅱ”などは勿論、BLUEPRINTやMF DOOM、SADAT Xといった面子との相性の良さをゴチャゴチャ言わずに楽しむのがベストかと。 このアルバム最大の欠点は、アルバムとしてのまとまりが完全に破錠している点だ。ラジオ向けな”VIEWTIFUL FLOW”や”ELIXIR”は明らかに場違いだし、MF DOOMが悪くない仕事を聴かせる”DA SUPAFRIENDZ”にしてもこの流れの中では魅力が半減している。MADLIBにしても、居心地が悪そうに小さくまとまっている。 楽曲単位で聴けば十分に水準以上だし悪くないのだが、どうも歯切れの悪いアルバムになってしまったように思う。楽曲のカラーがこうもコロコロと変わると流石に不自然だし、VAST AIREの個性も混乱の中に埋もれてしまう。身内で固めるか、完全に外注仕様にするか、的を絞った方が良い結果になったであろう事は明らかだろう。楽しめる楽曲も少なくないだけに、もったいない。