VIKTOR VAUGHN “VAUDEVILLE VILLAIN”

やたらと別名でリリースするもんだから、ちゃんとアンテナを張ってないと見逃してしまう。このVIKTOR VAUGHNなるキャラクターは、MF DOOMの新たなる人格。決して衰える事のない創作意欲をコントロールするには、多重人格にならざるを得ない、ということか。 サウンド面をSOUND INK勢に任せてMCに専念したMF DOOMは、本作でタイムトラベラーVIKTOR VAUGHNに扮している。壊れたタイムマシーンを修理して未来(彼にとっての現代)に戻るために、孤軍奮闘する様がアルバムを通して描かれるという、いかにもB級SF好きのDOOMらしいコンセプトだ。VIKTOR VAUGHNは足止めされた過去で、ハスリングやワックMCと戦闘に興じたり、APANI B扮するNIKKIに淡い思いを抱いてみたりもする。サウンド面に気をとられずにすんだお陰か、本作でのMF DOOMはリリシストとして今までになく輝いている。これだけ大量のリリースを続けながらも、こんな面白いアイデアを思いつきそれをエンターテイメントに仕上げてくる辺り、正にマッド・サイエンティスト。 SOUND INK勢によるプロダクションは、DOOMのライムを引き立てるに留まっている。レトロなSFというようなコンセプトに合わせてか、トラックの方もどこか懐かしさと近未来的な要素が混在していて、例えば定番アイザック・ヘイズ・ネタ使いの”LICKUPON”を始め、90年代前半のプロダクションに軽く味付けした感じが多い。アルバムは一貫した空気を保っているが、最もSOUND INK色の濃いHEAT SENSORによる”RAE DAWN”から、スムースなピアノ・ループが心地良い”LET ME WATCH”、相変わらずファンキーこの上ないRJD2の”SALIVA”に至る中盤が文句無しにアルバムのハイライト。”POP SNOT”もイルだ。 一連のインスト作品ですっかり旬のプロデューサーに祭り上げられたMF DOOMではあるが、彼のMCイングのスキルも忘れちゃいけない。彼のデリヴァリーは、自身のプロダクション同様ダイナミックだ。