CANNIBAL OX “THE COLD VEIN”

ニューヨーク地下若手代表ATOMS FAMからは、VORDULとVAST AIRのデュオ、CANNIBAL OXがアルバム・デビュー1番乗り。EL P主催DEF JUXの全面バック・アップによって、新世紀の幕開けに相応しい、驚異的なデビューアルバムが届いた。これぞ、クラシック。結果的にCO FLOWの最後のシングルとなったスプリット・シングルでデビューした、という事実そのものが世代交代感を強めていて、彼らの存在自体を象徴している。これからは、彼らの時代という事だ。

アルバムは、そのシングルに収録されていた”IRON GALAXY”で幕を開ける。EL Pのドープなスペイシー・ビートに、VASTとVORDULのストイックなパンチライン(「5本マイクなんてクソ食らえ/俺らは108本欲しいんだ」)が映えまくる、超強力な一曲。アルバムの中に組み込まれる事で、魅力を増してる様にすら感じられる。カップリングの”STRAIGHT OFF THE D.I.C.”においても、ハイトーン・ヴォイスのVASTと冷静なVORDULのコンビネイションは完璧で、EL Pのプロダクションも含めて、無数のラッパー/プロデューサー達との格の違いをまざまざと見せ付けている。続く”ATOM”には、VASTとVORDULもメンバーのATOMS FAMILYからALASKAとCRYPTICが参加。タイトなマイクリレーを聴かせるものの、ゲストで言えば”BATTLE FOR ASGARD”での、ニューヨークはSTRONGHOLDクルーから参加したC RAYZ WALZとLIFE LONGに軍配が上がる。ハードなサイファイ・ビートで超強力なパフォーマンスを聞かせてくれる。C RAYZ WALZの暴れっぷりは凄まじい。セカンド・カットの”A B BOY ALPHA”での悲しげなピアノに絡む電子音、”RASBERRY FIELDS”におけるイレギュラーなドラム・パターン、男女の関係をライムした”THE F WORD”のシンセ、どれもが正に次世代のサウンド。

CAN OXにとってのハイライトは、EL Pがマイクでも加わる”RIDICULOID”での男前なVORDULのストイックなライム捌き、ベスト・カット”PIGEON”でのVASTのドープ過ぎる比喩表現辺りか。自らを”鋼鉄の羽を持った”ハトに例えてニューヨークの町を描写する”PIGEON”は、驚異的なプロダクションも併せて、ベスト・ソング・オブ・ザ・イヤーに推したい。”STRESS RAP”には、SOLEへのキツイ一言「お前はニューヨークを愛してるけど/ニューヨークはお前を愛してないぜ」なんてのもある。ドープ!シークレット・トラック”SCREAM PHOENIX”も、そのイントロから女性ヴォーカルのループ、ギター、全てがドープで、アルバムのトップ5に入る出来。

全てのトラックを手掛けるEL Pも完璧。完全にネクストレベルの仕事振りで、これまでにないグルーヴを聴かせてくれる。数々の電子音、うねるギター、悲しげなピアノ、歪んだへヴィーなドラム、全てが一つになって混沌とした世界を作り出していて、あらゆる音楽シーンにとって、今後のプロダクションの指標となりえる完成度を誇っている。

ここまで、隅々まで練り練られたアルバムは久しぶりだ。一瞬たりとも隙を抜けない緊張感を最後まで保っている。一家に一枚、必携のアルバム。真のマスターピースだ。