EL-P “FANTASTIC DAMAGE”

遂に出た。CO-FLOWの解散直後から噂になっていた、EL-Pのソロ・アルバムが。去年は、自らのレーベル運営に専念していた彼だが、CANNIBAL OX”THE COLD VEIN”での驚異的なプロダクションは、ソロ・アルバムへの期待を更に増大させたが、この”FANTASTIC DAMAGE”は彼の集大成と言えるインスタント・クラシックだ。16曲、ピュア・ドープネス。

CO-FLOW”END TO END BUNER”などの破壊力、CANNIBAL OXなどで聴けた深遠な世界観、ずば抜けた構成力などが、このアルバムで一つの完成を見たと言える。破壊力と言う意味では、リズミカルなフロウが新境地の”FANTASTIC DAMAGE”での劈くようなシンセに続いて登場するへヴィーなドラムなどは良い例だが、続くウルトラ・ハードなフューチャー・ファンク”SQUEEGEE MAN SHOOTING”が最強だ。自らのオールド・スクール体験を語るライムも手伝って、EL-Pのルーツが高らかに宣言されている。”DEEP SPACE 9MM”や”DEAD DISNEE”、”THE NANG, THE FRONT, THE BUSH AND THE SHIT”、”LAZERFACE WARNING”なども最高のヘッドバンガー。なかでも、DEF JAM批判も飛び出す反大企業ソング”DEAD DISNEE”は、最も彼らしい。

そして構成力の話だが、ドラム・ロール以降の展開に唸らされる”TUNED MASS DAMPER”を筆頭に、DJ ABILITIESが主役と言っても良い”DELOREAN”なども良いが、やはり、実の母親に暴力を振るう義父についてという”STEPFATHER FACTORY”から、彼の元を去った愛する女性への思いを真摯にライムする”T.O.J.”への流れは完璧だ。パーソナルなリリックも素晴らしい。異色なところでは、最近完全に定着した感のあるバウンス・ビートのEL-P流解釈”TRUANCY”もドープ。ノイジーなフックも壮大、終盤に加えられたトロピカルなインタールードも面白い。どんなサンプルを使おうとも自分の色に染めきってしまう辺りは、流石の一言。お馴染みの面子が揃ったゲスト陣の中では、アルバムのラストを飾る”BLOOD”でのMR LIFが強烈な印象を残している。

このアルバムの陰の主役とも言えるのが、全篇に渡ってスクラッチを担当するRHYMESAYERSのDJ ABILITIESだ。EYEDEAとのアルバム”FIRST BORN”でもその素晴らしいスクラッチを披露していた彼だが、このアルバムでも、時に主役の座を奪うほどの仕事振り。

とにかくハードなアルバム。とかくサウンド・プロダクションばかりが注目されがちなEL-Pだが、このアルバムでMCとしても相応しいリスペクトを受ける事だろう。「クソ野郎、これがアブストラクトに聴こえるか?」(”TUNED MASS DAMPER”)という事だ。