ICE CUBE “DEATH CERTIFICATE”

悪名高きN.W.A.のサウンドを代表していたのがDR. DREだとすれば、彼らの名を全米に広めた過激なライムを一手に担っていたのが、このICE CUBEだ。グループの看板MCだった彼が、PUBLIC ENEMYのプロダクション・チームTHE BOMB SQUADをソロ・デビュー・アルバム”AMERIKKKA’S MOST WANTED”で全面的に起用した事は、NWAとの決別を印象付けた。THE DEATH SIDEとTHE LIFE SIDEの2部構成となるこのセカンド・アルバム”DEATH CERTIFICATE”は、彼のアーティストとしての評価を決定付けただけでなく、東海岸の模倣に過ぎないと言われ続けてきた西海岸のヒップホップを、質の面でもオリジナリティの面でも東海岸ヒップホップと肩を並べる存在に押し上げた歴史的名作だ。

黒人が置かれている現在の状況を表しているというTHE DEATH SIDEは、ドラッグ・ビジネス、ギャング抗争、性病、銃の問題など、黒人社会におけるステレオタイプなマッチョイズムを徹底的にライムする。NWAがプロモートしてきたようなライフ・スタイルを、葬るべきモノとして”THE DEATH SIDE”と名付けたのだろう。

このアルバムの肝、”THE BIRTH”以降のTHE LIFE SIDEは、これから向うべき道のヴィジョン。 “I WANNA KILL SAM”などは白人に対してただ怒りをブチまけてる感じだが、”COLOR BLIND”や”US”では、自分達に目を向け解決策を探ろうとする様が伺える。他人に責任をなすり付けるのではなく、自らをまずは向上させよと説く”US”のような曲を、あの”BITCH IZ A BICTH”のICE CUBEが書くなんて、誰が想像しただろうか。

ただ、”BLACK KOREA”を筆頭にアルバムの端々に現れる韓国人/日本人に対する差別的なライムは頂けない。映画”ポケット一杯の涙”や ”ドゥ・ザ・ライト・シング” で描かれているような黒人社会と韓国人社会の間の軋轢を考えても、THE LIFE SIDEでこういう事をライムするのは、納得できない。後のインタビューでは、”勉強不足だった”と謝罪をしていたが。

話題を変えよう。DJ POOH、BOBCAT、RASHADからなるTHE BOOGIE MENを中心に、SIR JINX、そしてICE CUBE自身によるプロダクションは、CUBEのとにかくパワフルなラップを完璧なまでに支えている。そのタフでラフなサウンドは、後の西海岸をP-ファンク・サンプルで埋め尽くすだけのインパクトを持っていたように思う。

まあ、色々言ったものの、それぞれの楽曲の質も高いし、アルバム全体の流れも素晴らしい。なんと言っても、ICE CUBEのハイテンションなラップと、それに全く負けていない力強いプロダクションに圧倒される。ICE CUBEの最高傑作であるだけでなく、文句ナシのクラシック・アルバム。