ANTICON等での数々の課外活動を経て、その才能に見合っただけの評価と人気を世界的に高めつつあるSLUG。未だに色褪せないクラシック”OVERCAST!”から、実に4年ぶりのアルバムである。オリジナル・メンバーだったSPAWNが抜け、SLUGの1MC体制では初のアルバムだ。彼の魅力であるそのエモーショナルな語り口は、一向に衰える気配は無い。活動量を考えると、正に驚異的。
冒頭の”BETWEEN THE LINE”から、SLUGの魅力が最大限に現れている。心地よいトラックに乗せ歌うようなデリヴァリーで、ストレスに満ちた日常を、3つの物語から浮かび上がらせる。「今日誰かを殺しちゃうかも….」サビが強烈だ。”LIKE TODAY”では、変化の少ない毎日を皮肉っぽく語り、”DON’T EVER FUCKING QUESTION THAT”は、別れた彼女へのラヴ・ソング。”WOMAN WITH THE TATTOOED HANDS”では、中年女性の手にある2つの刺青を、人間の善と悪の隠喩に使い、不思議な物語を聞かせてくれる。美しすぎるピアノ・ループも含め、アルバムのベスト・カット。
音について気になったのは、ANTは速い曲やハードな曲は得意でない、という事。彼の魅力はやはり、スムーズでメロウな曲でこそ発揮される。例えば、”BETWEEN THE LINE”、”DON’T EVER FUCKIN QUESTION THAT”、そして”THE WOMAN WITH THE TATTOOED HANDS”等は、彼の真骨頂だろう。やはりというか、JELが手掛けた曲が総じて高水準だ。僅か3曲ではあるが、車について歌ったダビーな”FREE OR DEAD”、ハードな”THEY’RE ALL GONNA LAUGH AT YOU”、随分謙虚な、ファンキーでレイド・バックした”LOST AND FOUND”、どの曲もSLUGの新たな魅力を引き出す事に成功している。夢の競演ともいえるのが、EL Pがビートに加えマイクでも参加した、シークレット・トラックの”HOME COMING”だ。2人がそれぞれ、ニューヨークとミネソタでの幼少期についてキック。徐々に盛り上がってくビートもドープだ。これこそ、正にボーナス・トラック。
求めるものが大き過ぎるのだろうか、素晴らしいアルバムであるにもかかわらず、若干の失望感があるのが正直な所。ホンの幾つかの駄曲が残念でならない。決してANTのトラックが嫌いな訳ではないのだが、JELとMOODSWING9の手掛けた曲がそれぞれこのアルバムの重要な位置を占めているところを見ると、この2人がもっとやっていれば…..等という邪念が頭をもたげてしまう。最後にはEL Pが控えてもいる事だし…..。