2 MEX “B-BOYS IN OCCUPIED MEXICO”

VISIONARIES、SHAPE SHIFTERS、OF MEXICON DECENT、MUM’S THE WORDとのMIND CLOUDERSなど、数多くのグループに所属し、多くの傑作に関わってきた2MEX。これまで、スポークンワード・プロジェクトやベスト的なアルバムはリリースしているものの、ソロ・アルバムと言えるようなモノはこれが初めてと言って良いと思う。伝説的なPROJECT BLOWEDにおいて修行を重ねてきた2MEX、待望のアルバムだ。

彼のラップは決してテクニカルなモノではないのだが、スペイン語を交えたその感情的な語り口は正しくオリジナル。”LA LIKE”や”CONTROL MEXICA”からは彼のルーツが聴いて取れるし、”HUMBLE IS THE STYLE OF THE DAY”や”OFFERING”などでは詩的に人生についてライムしていて、正に2 MEXの真骨頂だ。”I DIDN’T MEAN TO TOUCH YOUR HAND”では強烈な自己嫌悪を露にし、”LOVE YOU THE SAME”では「君が俺を愛してくれるなら/俺も同じ様に君を愛する」と歌うように呟き続ける。打楽器の名を羅列する”PERCUSSION PERCUATION”や、全てのセンテンスにおいてMで始まる単語を散らばめた”M IS FOR MEMO”では言葉遊び的な要素を聴かせて、多面的なところを見せる。

プロダクション面で最も貢献してるのはMUM’S THE WORDだ。このアルバムでの彼の仕事振りは目を見張るモノがある。特にスムースでメロウな曲に良いモノが多く、”HUMBLE IS THE STYLE OF THE DAY”を筆頭に、女性ヴォーカルがソウルフルな”WONDERFUL MEMORIES”、”LOVE YOU THE SAME”辺りは最高だし、”ACROSS & DOWN”や”LORD 25″も良い。OMIDも当然ながらタイトなトラックを提供している。ファンキーな”PERCUSSION PRECAUTION”、ホーン使いが彼らしい”CONTROL MEXICA”、ヴォーカル・ループが幻想的な”OFFERING”辺りは、どれもベストの仕事ではないが安定した仕事振り。

プロダクションからラップまで、2 MEXとしか言いようのないアルバムに仕上がった。何曲か水準に満たない曲はあるものの、ファンの期待に充分に応えるデビュー・アルバムだ。ファンキー。

3 MELANCHOLY GYPSYS “GYPSY’S LUCK”

MURS、ELIGH、SCARUB。古くはLOG CABINのメンバーとして、現在はL.A.最強のクルーLIVING LEGENDSのメンバーとして、クラシックを生み出し続ける3人のMCによるグループが3 MG’Sだ。

セルアウト・ラッパーについてのありきたりな内容を、新たな視点でフレッシュに聴かせる”DISAPPOINTMENTS”が一発目。腹に響くキック、浮遊する上ネタが3人のライムを支える。やはり、この3人の相性は完璧だ。ストリングスが哀愁を誘うトラックが良い”ABSTRAKTIONS UV REALITY”がベスト。神についての考えを述べるSCARUBのヴァースが個人的には好みかな。女の体と心についてライムした”HOPELESS ROMANTIC”のイレギュラーなリズムも面白いし、ゴシップや噂についての”YOUR BUSINESS”のトラックもドープだ。エスニックな”MASS MEDIA”では、タイトルの通り現代のメディア問題に言及。ラストの”ROUND THE CAMPFIRE”だけ何故か音質が悪いが、それが良い方向に作用していて、他の曲にはないロウネスに満ちている。3人のラップにも、フリースタイルっぽいラフな魅力がある。

同じテーマを扱っても、3人が全く違ったアプローチを聴かせる。才能溢れるLIVING LEGENDSクルーの中でも、特に光っている3人。ELIGHによるプロダクションが少し弱いのが勿体無いが、3人がライムすればそんなマイナス点などは気にならない。LEGENDS以前から繋がりを持つ彼ら、そこには特別な何かがある。彼らのベスト・ワークではないが、お勧めだ。

3582 “THE LIVING SOUL”

オハイオを代表するグループ、LONE CATALYSTSとFIVE DEEZは、共にそのソウルフルでジャジーなサウンドが高く評価されているが、今回そのサウンドを担うJ. RAWLSとFAT JONがグループを結成した。お互いのベル番である2桁の番号をつなげた、3582という名の付いたこの当代きってのサウンドクリエイター2人のユニット。基本的にFAT JON(35)がラップを、J. RAWLS(82)がトラックを担当している。そもそも、ソウルフルとかジャジーといった共通点はあっても、泥臭くトラディショナルなJ. RAWLSと多用な音楽の影響を感じさせる透明感の強いFAT JONの共作という事でどういったものになるのか興味深かったのだが、2人で作成したトラックは無く少し残念。

FAT JONのラップは、極めてオーソドックスで、淡々とポジティヴなライムをキック。J. RAWLSもマイクを握る”NO NEED TO RUN”での自己改革ライムを始め、シンプルな”THE COLLECTIVE”、ほろ苦い恋愛模様”WHAT COULD BE”、希望に満ちた”YESTERDAY (82 MIX)”、自らの歴史を語る”THE LIVING SOUL”、疾走感のある”BAD FORM”、女性ヴォーカルも心地良い人生の空しさを語る”EMPTY”、どれもスムースで暖かいグルーヴに満ちていて、落ち葉舞う暖かい秋の昼下がりといった雰囲気だ。J. RAWLSのトラックは何処かFAT JONに歩み寄った感がある。奥行きのあるミックスも含めて、以前の作風と比べて多少洗練された印象。

FAT JONファンには、とにかく速い”2ND PERSON”で溜飲を下げるだろう。マッシヴ・ブレイク。”SOUND IMAGING”、”VIVID PROGRAMMING”、”MC2″等のジャジーなインタールード的トラックも高水準。

中でも面白いのは、同じ曲を2人がそれぞれリミックスしたものだ。”NO NEED TO RUN”は、ファンキーなJ. RAWLSにサビのフルートが心地よいFAT JON、逆に”YESTERDAY”では、とにかくスムースなJ. RAWLSに比べFAT JONはバウンシーに仕上げていて、興味深い。

前述したとおり、FIVE DEEZのアルバムに印象が近い。J. RAWLSのアルバムで聞くことが出来た、特徴的なウッド・ベース等はココにはないが、それでも非常に密度の濃い完成されたアルバムである。ポジティヴなリリックと共に、大人のヒップホップとでも言いたくなる様な真摯で洗練されたヴァイヴが全編に渡って漂っている。

3RD BASS “DERELICTS OF DIALECT”

3RD BASSは、一言で言うとDEF JAMがBEASTIE BOYSの代わりに売り出した新たな白人グループ。当時別々に活動していたMC SEARCHとPETE NICEをDEF JAM側が引き合わせてグループを組ませた訳で、つまりは2匹目のどじょう。BEASTIE BOYSと違いより「黒人的」な面を前面に押し出していた彼らはセールス面ではまあまあ程度だったが、スキルに関しては文句なしと言えよう。

MC SEARCHとPETE NICEのコントラストが売りの3RD BASSだが、個人的には堅いPETE NICEのフロウが好きだ。いつもスーツ姿に杖というファッションもラッパーらしからぬと言うか、いわゆるストリート・ファッションに身を包んだMC SEARCHとは対照的で印象的だ。リリック面では全体的に言葉遊び系が多いが、2人の違いは特にメッセージ色の強い楽曲で顕著。直接的なMC SEARCHと比べて、PETE NICEのひねった言い回しは耳に残る。ベスト・トラックは”POP GOES THE WEASEL”かな。いわゆるセルアウト批判だが、ポップなトラックとサビが皮肉っぽくて当時良く聴いた覚えがある。ヴァニラ・アイスのソックリさんを袋にするビデオも話題になったし、3RD BASS最大のヒット曲でもある。

トラック面でも聴き所が多い。デビュー作よりも若干ハードになった感があるが、PRINCE PAULが多くを手掛けているだけあってカラフルなサンプル使いがドープ。奇妙なインタールードの数々もPRINCE PAULの仕業だろう。”MICROPHONE TECHNIQUES”や”PROBLEM CHILD”を手掛けたSAM SEVERは当時DEF JAM関連作や自身のグループDOWNTOWN SCIENCEでも良い仕事をしているので、名前は覚えておいて欲しい。

このセカンドの後、2人は仲違い。それぞれのソロ作も悪くはなかったが、彼らはコンビならではの味が受けていた訳で、やはり2人の掛け合いが好きだった者としては非常に残念な限りだ。だが、彼らが残した2枚のアルバムはどちらも良盤と言って良い。未聴の方は是非。

50 CENT “GET RICH OR DIE TRYIN’”

インディペンデントでリリースされたアルバム”GUESS WHO’S BACK”は勿論、多くのミックステープへの露出などで、ストリートでの人気は凄いらしい。COLUMBIAとの契約はアルバム発表前にオジャンとなったが、EMINEMのSHADY RECORDSに拾われたってのも、50 CENTを地図に載せたデビュー・シングル”HOW TO ROB”がヒップホップ業界の大物達から金目の物をかっぱらっていくというブラックジョークに満ちたモノだった事を考えれば、納得がいく。

昔と比べて力の抜けたフロウは好き嫌いが分かれそうだが、個人的には嫌いじゃない。フックの歌い上げっぷりも、憎めないモノがある。CDのみ収録の、COLUMBIA時代の音源”LIFE’S ON THE LINE”と比べると、まるで別人だけど。リリックはと言うと、「俺に喧嘩売ると痛い目にあうぜ」みたいな、なんのヒネリもないギャングスタ・ライム。ギャング・バング、パーティー、ピンプ、ウィードと、定番な題材がズラズラ。JA RULEを徹底的にコケにした”BACK DOWN”も、”LIFE’S ON THE LINE”と比べるとヒネリが足りないんじゃない?

トラックは粒揃い。DIGGAの”MANY MEN”や、DJ RADの”HIGH ALL THE TIME”、DIRTY SWIFTの”21 QUESTIONS”辺りの、比較的無名ドコロの手掛けたトラックが気に入った。”LIKE MY STYLE”みたいな派手なのよりも、こういう方が50 CENTのフロウにはマッチしていると思う。

DREの手掛けた”IN DA CLUB”同様、50 CENTのフロウは意外とクセになるが、リリック的にあまり面白くなかった。”PATIENTLY WAITING”でEMINEMは、50 CENTをBIGGIE、JAY-Z、BIG Lなんかと同列に並べてるけど、本気?