オムニバス “ANTICON - HIPHOP MUSIC FOR THE ADVANCED LISTENER”

アメリカはとにかく広い。そんな分かりきった事を、このコンピレーションを聴いていて実感させられた。ヒップホップは好きだがどこにも居場所がない、そんな連中が集まって凄いコンピレーションを出した。ANTICONだ。

まず、ポッセカット。SLUG、SOLE、DOSE ONE、ALIASによるユニットDEEP PUDDLE DYNAMICSの”RAINMEN”は、シンプルなトラック上でのマイクリレーがドープ。RAKIMの一節を引用しながら登場するSLUGがやはり貫禄だ。そのSLUGのクルーRHYMESAYERSの若手EYEDEAが、正に地球上の物ではないイルなラインを聴かせる”SAVIOR?”、SHAPE SHIFTERSのCIRCUSが圧巻の”HOLY SHIT!”辺りがハイライト。

SEBUTONESとしても知られる、カナダのベテランBUCK 65とSIXTOOはそれぞれソロ曲を提供。2人ともマイクだけでなく、トラック面でも非凡なところを聴かせてくれる。ラッパーのDOSEとプロデューサーのJELによるユニットTHEMの”IT’S THEM”は、変則的なドラムの打ち込みと、それを至って自然に乗りこなすDOSEが凄まじい。駄目な人にはとことん駄目だろうが、一度ハマると病みつきに。ベストカットは、ALIASの”DIVINE DISAPPOINTMENT”だろう。神の視点からのライムと共に、ALIAS自身の手掛けるトラックもドープだ。ATMOSPHEREのSLUGといえば、その最大の魅力であるエモーショナルな語りを”NOTHING BUT SUNSHINE”でも堪能できる。両親の死についてのライム。SOLEの”MARTYR THEME SONG”は、彼の以前のグループLIVE POETSのDJ、MOODSWING9がドープなトラックを提供、SOLEも快調に飛ばしている。

ANTICONのサウンド面を担うDJ達によるインタールードもタイトで、スクラッチもいい味を出しているし(特別どうこういう程じゃないけど)、アルバムを一つにまとめるのに一役買っている。

とにかく、強烈なオリジナリティが全体に漂う、凄いコンピレーション。確かに癖が強い連中なので、拒否反応を示す人も多いかもしれないが、ヒップホップの本質を理解している人なら、虜になるだろう。彼らはただ”自分に正直”なだけだ。ヒップホップってそういうものでしょ?