MURS “MURS 3:16 - THE 9TH EDITION”

MURSのDEF JUX第2作目。LITTLE BROTHERの9TH WONDERが全曲プロデュース。

MURSの新作とはいえ、注目すべきはやはり9TH WONDERのトラックという事になろう。ルーズなジャズ・ループに、ソウル・ヴォーカル・サンプル、ボトムの強調されたドラムス。間違っても革新的な音じゃないが、MURSの人間臭いライムに最高のバックグラウンドを提供。正に期待通りだ。プロダクションを彼一人に任せた事がこのアルバムを傑作にしていて、統一感の薄かった前作とはうって変わって首尾一貫したトーンが貫かれていて心強い。9TH WONDERの人肌のような暖かいサウンドに、人間性が滲み出るMURSのライムが乗る訳だから悪い訳がないというものだ。

MURSに関しては、あまり言う事がない。MURSはいつもドープだし、だからこそ、その後ろで鳴ってる音が作品の出来を左右する。今回も、女ネタ一つとっても、”BAD MAN!”では「最初からファックしたかったんだよ」とうそぶいてみたり、”THE PAIN”のようにシットリと失恋の痛みを語ってみたりと、相変わらず饒舌だ。親友の死と復讐を描く”WALK LIKE A MAN”は映画ボーイズ・イン・ザ・フッドを思い起こさせるし、”AND THIS IS FOR…”は、人種とヒップホップに関するサード・ヴァースがとにかく秀逸。俺の音楽は人種を超えてアピールするが、ヒップホップがロックやジャズと同じような末路を辿るのなんて見たくない、とヒップホップがブラック・ミュージックである事を改めて宣言している。

これまでとにかく多くのビートメイカーと曲を作ってきたMURSだが、9TH WONDERはベスト3に入る相性の良さ。全体のまとまりも素晴らしいし、ここ2~3年のMURS作品の中では最も楽しめるアルバムなんじゃないかな。