BROTHER ALI “RITES OF PASSAGE”

お馴染みSLUGを筆頭に、凄腕MC達が名を連ねるRHYMESAYERS。このBROTHER ALIは若手注目株メンバー。スクリブル・ジャムのMCバトルでは常連であるが、ムスリム信者の彼のリリックは極めて意識の高いもので、このデビュー・カセット・アルバムはそんなメッセージに満ちている。

ALIのデリヴァリーは、極めてオーソドックス。ポジティヴなメッセージをストレートにライムしていくのが、彼のスタイル。そのスタイルを集約していると言えるのが、イントロに続く”WHATEVER”だ。他人を責めずにまず自分を向上させろ、といった自己改革/自己責任について歌っている。「ギャンブルに金注ぎ込むくせに/お互いに投資するのはリスクが高いと思ってる」といった感じ。”NINE DOUBLE EM”では、生き別れた自分の従兄弟を撃ってしまった男を通して、ストリート・ヴァイオレンスの皮肉な物語を綴る。勿論、そういった曲ばかりではない。”ALI BOOMBAYE”はそのタイトル通り、ワックMCを切りまくる。”THE SESSION”では、ヒューマン・ビートボックスに乗せて強力なパンチラインをキック。ヒップホップにおいて、競争は基本中の基本。どんなタイプのラッパーだろうが、こういった曲でスキルを見せて欲しいものだ。

トラックは、1曲を除いてBROTHER ALI本人が手掛けているが、彼のラップスタイルと同じくオーソドックスなモノで、ブレイク・ビーツにワン・ループ。特筆すべき点はないが、なかなかいいループが揃っている。中でも、”THINK IT THROUGH”、”EYE OF THE STORM”、”ALI BOOMBAYE”の3曲は心地よい。ベスト・トラックは、途中からループが変わる”SO DEARLY”。ピアノが美しく、テープというメディアを考えた構成も素晴らしい。

一言でいうと、非常にスタンダードなアルバムである。ライム面でもトラック面でも、90年代初頭の良質なインディペンデント・ヒップホップの空気、といえば分かりやすいか。いい意味でのB級感が隅々に漂うアルバムだ。