BROTHER ALI “SHADOWS ON THE SUN”

BROTHER ALI本人は、2度と聴きたくないというほど前作を気に入ってないそうだ。確かに、カセット・アルバム”RITES OF PASSAGE”にはありきたりなテーマが多く彼の人間性はあまり見えてこなかったが、良質のサンプルをふんだんに用いたトラック群などもあって、個人的には愛聴していた。だが、セカンド・アルバムとなるこの”SHADOWS ON THE SUN”を聴き終えた後では、彼の気持ちが良く分かった気がする。

先天性色素欠乏症(アルビノ)という、細胞の色素が失われる病気を持つBROTHER ALIは、その病気のせいで如何に辛い思いをしてきたか、そしてイスラム教への信仰がどのような役割を人生に於いて果たしてきたかを、”PICKET FENCE”で赤裸々に語っている。この楽曲は感動的なだけでなく、成長著しいBROTHER ALIの作詞力、表現力を如実に表していて、素晴らしいの一言だ。本作を聴いて驚かされたのは正にそこで、前作からは想像も出来ない程に表現の幅も広がり、自らの人間性をさらけ出した作品になっている。「俺を醜いと言うのは勝手だが/俺からは何も奪えない」と、自らを客観的に見つめつつも「自分に自信を持て」というメッセージを送る”FOREST WHITIKER”が人としてのBROTHER ALIの現在の素直な気持ちだとすれば、「俺はラップしてるんじゃない/魂の祈りを暗唱してるんだ」と語るタイトル曲”SHADOWS ON THE SUN”は、アーティストとしてのBROTHER ALIの姿。”PAY THEM BACK”で「客の半分がラッパーのパーティーをロックする/そいつらの意見を気にするとでも思って俺のライムを分析する」とリスナーにアーティストとその作品に対する敬意を求めている事が、BROTHER ALIが自分の作品に対する自信を確固たるものにした事の端的な表れだろう…と、敢えて分析してみる。

基本的に捨て曲は一切ナシ。地元ミネアポリスを描く”ROOM WITH A VIEW”や、同じアパートに住む自分の子供を虐待する男と対峙する”DORIAN”、よくあるナンパモノかと思いきや実はストーカー・ソングになっていくユーモラスな”PRINCE CHARMING”などではレベル・アップした描写力が堪能出来るし、アルバムを通して彼のデリバリー/フロウの多様性も聴き所だ。SLUGとの抜群のコンビネーションは流石。

全曲を手掛けたANTのプロダクションも素晴らしい。これまでは質にバラツキのあったANTのトラックだが、BROTHER ALIの気合に押されてかANTのキャリアでもベストに入るであろう仕事振りだ。シンプルでソウルフルにまとめている。

欠点もない事はないが、BROTHER ALIは素晴らしいアルバムを仕上げてきたと思う。最高のリリックにフロウ、暖かいトラック。2003年のベスト・アルバムの一つだ。