BUCK 65 “SQUARE”

BUCK 65がWARNERと契約したというニュースは、多くのファンの間で驚きをもって迎えられただろう。中には”セル・アウト”という単語が浮かんだ者もいるだろう。多くのアンダーグラウンド・ヒーロー達がメジャー契約を境に、それまでの輝きを失っていく様をイヤと言うほど見せ付けられた訳だから無理もない。が、BUCK 65にとって、レーベルと言うのは所詮アウトレットに過ぎないと言う事を忘れてはいけない。音楽業界の政治にばかり気を取られ、肝心の音楽が横に追いやられてしまうようでは、自己矛盾も甚だしい。

アルバムは、十数分にわたる4つのパート”SQUARE”が収められている。BUCKは、これまでの作品同様パーソナルな心模様を聴かせてくれるが、本作ではより深く、かつてのユーモアは控えめに、何時になくダークだ。次から次へと変化するサンプリング・ループ、ドラム、ヴォーカル・コラージュ、スクラッチの合間を縫うように、様々な物語が綴られてゆく。それらは、奇妙な寓話のようでもあり、BUCKの心の鏡でもあるのだろう。全貌を理解するには、相当の時間が必要とされそうだ。彼らしい複雑な構成もあって、美しいループやそれぞれの物語を追っていくだけでは、アルバムの一片を垣間見ているだけに過ぎない。個人的にも全てを理解できたなどとは決して思わないが、あえてアルバムの印象を端的に表すなら、ロマンティックかつ繊細なアルバム、というのが一番シックリくるかな。それだけでも、ヒップホップの表現を更に広げた、BUCKにしか作り得ない極めて独創的な作品だと言えると思うが。

旧作のリイシューもそうだが、WARNERはよくこれほどの作品を出せたものだと思う。サンプル・クリアランスだけでも相当大変だったと思うが…。アルバムのトータル・プロデュースという意味では、これまでで最も質の高いアルバムだと思う。メジャーと契約したからって、BUCKが変わると思っていた人などいないと思うが、もし貴方がそうなら、彼を侮りすぎだ。必聴。