オムニバス “DEF JUX PRESENTS…”

全く新しいサウンドとライム・スタイルで、90年代後半のヒップホップ・シーンに計り知れない影響を与えたCOMANY FLOWの解散は、多くのファンに大きな衝撃とシーンの行く末に対する不安をもたらした。結果的に、このEPに収録された3曲が最後の作品となったが、彼らの勢いは衰えるどころか増すばかりだ。

まずはCOMPANY FLOWだが、冒頭の”DPA”が最高だ。仰々しい始まりからノイジーでラフなファースト・ヴァース、深いループ、渦を巻くハイハット。EL Pのラピッド・フロウも絶好調。MR LENのスクラッチも良い。因みに、”DPA”とは”DRUM PATTERN AWARENESS”の事。”SIMMIAN D”には、NON PHIXIONのフロントMC、ILL BILLが加わり、タフでファンキーなビート上での掛け合いが素晴らしい。「マイクロソフトがなかったら/カマ野郎達にファンはいないぜ」。BIZの定番声ネタは、そのままファンキーだ。ラスト”SIMPLE”は、新世紀に向けての声明だ。クラシック・ロック調のリフに重たいベースライン。

ATOMS FAMILYのVASTとVORDULによるデュオ、CANNIBAL OXのDEF JUX第一弾”IRON GALAXY”は、クラシック以外の何物でもない。EL Pの新型ビートも素晴らしすぎるが、VASTとVORDULの2人もドープ過ぎるリリシスト振りを遺憾なく発揮している。”STRAIGHT OFF THE D.I.C.”は、よりスペイシーに。COMPANY FLOWとの決定的な違いも興味深い。

MHZのDJ、RJD2によるインスト・トラック”SILVER FOX”は、良い意味で誤算だった。ベルの音色、ソウルフルな声ネタ、挿入されるアジア的なサンプル、イレギュラーなドラム・パターン。DEF JUXといえばEL Pのビート、と思っていた向きには、RJD2の存在が嬉しい驚きをもって迎えられるだろう。MUSHからのリリース”FLOAT”で一躍新たなアンダーグラウンド・ヒーローとなったAESOP ROCKのDEF JUX第一弾”KILL EM ALL”は、軽い肩慣らしといった感じ。セルフ・プロデュースのベース中心のトラックは少し地味だが、粘っこいフロウに優れたリリックで飽きさせない。「奴隷はクソ野郎のために働き、クソ野朗は王のために働き/王は商売女、コカインのために働く….」

ドープ・トラック + ドープ・ライム = ヒップホップ・クラシック。公式はいたってシンプルだ。彼らは、ニューヨーク・シーンの最先端、つまり世界の最先端。COMPANY FLOWの最後の音源となった事は悲しいが、このEPを聴く限り余計な心配は無用だ。彼らは進化し続ける。だからヒップホップは面白い。