DORIAN THREE “THE DORIAN THREE”

スクリブル・ジャムのMCバトル・チャンプADEEM、同じくスクリブルでPEACEとのバトルが思い出深いADVERSE。そんな2人に加え、DJ MF SHALEMがプロダクションを手掛けるのがTHE DORIAN THREE。”良いフリースタイラー”と”良いラッパー”は、必ずしも同義語ではないが、2人は幅広いトピックを扱っていて、結果単なる”パンチラインMC”では無い事を証明するアルバムになった。

アルバムのメイン・サブジェクトは、中流階級ならではの苦悩や問題、何て事のない日常。就職のための学歴だけを目的に大学に来る人間を皮肉った”EXPENSIVE IGNORANCE”、日々の仕事や付いて回る責任からの逃避願望を歌う”DISAPPEAR”、そして、彼らの方向性が最も魅力的に現れているのが、”SUBWITE”だ。サビの”郊外の白人のヒップホップを一番高いトコに持っていこうとしてる”と言うラインが全てを語っている。ここでは、MCとして彼らが経験した周りのステレオタイプな反応をコミカルにライム。ファンキーなビートもドープで、アルバム・ベストカット。

スピリチュアルな”YES YES YES”と”PULPIT BONUS”でも、彼らのリリカルスキルに唸らされる。宗教が、どれだけ大きな位置を占めているかが如実に現れていて、興味深い。知的な所を聞かせる”SONIC PROGENY”では、SHALEMがアルバム一のドラムを提供、後半の女性ヴォーカルやサビのストリングスなどに非凡さを感じさせる。ADVERSEのソロ・トラック”MR BARTENDER”、ADEEMのソロ”MS BARPATRON”、どっちも良い酔っ払い具合だ。

結果的に、トラック、ライム共に高水準で、非常に良いアルバムだ。唯一の欠点は、ヴォーカルが聴き取りづらい音質の悪さだが、それも小さい問題だ。何はともあれ、2人ともソロアルバムが楽しみな出来である。