DOSE ONE “HEMISPHERES”

色々と論議をかもす事の多いANTICONだが、その中心人物と言えるのが、このDOSE ONE。その奇妙な声とデリヴァリーは、拒否反応を示す向きも多いだろう。しかし、カセット・テープでのリリースだったこのオフィシャル・デビュー・アルバムとなる”HEMISPHERES”のCD化を機に、是非耳を傾けてみて欲しい。

このマスターピースを語るには、やはり当代随一の奇才DOSE ONEの話から始めなければいけないだろう。彼のような強烈な個性を持つアーティストは好き嫌いが分かれるだろうが、このアルバムでは比較的オーソドックスなスタイルを披露していて、MCとしての基礎体力の高さを証明。冒頭の”CIVILIZATION”が良い例で、2002年現在ではすっかり基本的なライミングから離れてしまったDOSEではあるが、ココでは凄まじいまでのライミングを聴かせてくれているし、アルバムを通して韻を踏みまくっている点もDOSEの原点を垣間見れるようで興味深い。”SLOW DEATH”やGREENTHINKなどの、実験的なプロジェクトの方が彼の代名詞になってしまった感があるものの、このアルバムや”THEM”での彼が本当の彼の姿と見るのが自然だろう。個人的な話になるが、筆者がこのアルバムを初めて聴いた時は、凄まじくドープなラッパーだとは思ったものの、DOSE ONEが現在言われているような、アート・ヒップホップのアイコン的な存在になるとは、夢にも思ってはいなかった。それ程、このアルバムでのDOSEはラッパー然としている。左右で全く違った事をラップする”ETHERIAL DOWNTIME”やポエティックで抽象的なリリックなどは現在のスタイルに通づるかもしれない。

さてプロダクションだが、今クレジットを見ると、考えられないほど豪華な面子が揃っている。殆どの曲をJ. RAWLSが手掛けているためか、アルバム全体の感触は極めてジャジーでソウルフル。ILLOGICのアルバム等で好演していたシンシナティの女性MC、LIONESQUEとの掛け合いもドープな”SPITFIRE”や”THAT OL’ PAGAN SHIT”辺りはいかにもといったJ. RAWLS節だが、FAT JONとの共作”VOLUNTARY PASSIVE EUTHANASIA”では深遠な風景を描いていて、唸らされる。

DOSE ONEが苦手な方は、このアルバムがお勧め。総合的に見て、非常に質の高いクラシック・アルバムだ。固定観念を捨てて、完全にオリジナルな彼の声と詩、フロウが織り成す自由な世界観をジックリと堪能して欲しい。