FAT JON “WAVE MOTION”

彼のグループFIVE DEEZのシングルや自身のインストEP等での、卓越したプロダクションスキルで俄然注目を集めるに至ったFAT JON。多数のプロジェクトを同時進行させながらも質の高い作品を送り出し続ける彼が、真打ちとも言うべきソロデビュー・アルバムを完成させた。期待に違わぬ、オリジナリティと暖かいソウルに溢れたインスト・アルバム。

“VISUAL MUSIC”での”俺の音楽は視覚的”というヴォーカル・サンプルが、FAT JONの音楽性を如実に表している。彼の音楽は、正に視覚的。写実主義の様に、独特のドラムの上をホーンやピアノが隅々に渡って鮮明な線を描き出す。”FEEL THE VOID”や”FOR STRESS”、ギターが素晴らしい”SURRECTION”、パーカッションがアクセントを付ける”TRUST YOU”といった抑えたグルーヴもそうだが、冒頭の”WHERE?”やKRS ONEの声ネタが上手くはまった”WATCH OUT”などのダンサブルな曲での透き通った魅力は特筆モノ。

細かいところでは、”AUTOMATED LIFE MACHINES”でのヒューマン・ビートボックスをあしらった冒頭部分、”WET SECRETS”での美しいピアノに絡むベル、小品”DISGUST”の激しいドラム等が聴き所と言えるだろうか。ボーナス・トラックとして、MUSHからのコンピ”ROPELADDER 12″にFIVE DEEZ名義で収録されていた名曲”RAIN DANCE”のインストゥルメンタル・ヴァージョンが。雨音の中を軽やかに疾走するドラムは、地面を跳ねる水しぶきを連想させる。

”ソウルフル”だとか”ジャジー”といった形容詞がこれほどシックリ来るアルバムも珍しいが、そんな古臭い単語では、当然このアルバムの魅力を一割も表現できない。ココには、ノスタルジックな風景は全く無く、ひたすら前向き。正に今しか生まれ得なかったであろう、フューチャリスティックな感触だ。始まりからボーナス・トラックに至るまで、練られた構成が聞き手を飽きさせない。筋金入りのヒップホップ好きから、単純に心地よい音楽が好きな人まで、あらゆる層にお勧めの一枚だ。