GLUE “SUNSET LODGE”

数々のライブパフォーマンスと2004年のデビューアルバム”SECONDS AWAY”が評判のGLUEの最新作。タイトルの”SUNSET LODGE”は全8曲のレコーディングが行われたMAKERの自宅スタジオの呼び名である。

前アルバムの最終曲”HAUNT”のメロディーがフェードアウトするところから始まり、「私は秋の始まりが好きだ」という中年男の声が入る爽やかなイントロは”SECONDS AWAY”の名残を感じさせる。しかし、次の”STEAL THE CROWN”と”WE NEED A.I.M”では一転してGLUEの新境地が展開される。緊張感のある速めのビートにDQのスクラッチを乗せて始まる”STEAL THE CROWN”は、宗教を口実にして猛威を振るうアメリカ政治を批判していて、ADEEMの言葉も非常に単刀直入だ。「俺達はいつも服従するように教えられてきた/今こそ奴らの言うことに立ち向かわなければいけない」と分かりやすく連呼するフックと、今までのGLUEに無いミニマル感が漂うシンプルなトラックが特徴的である。”WE NEED A.I.M”はロック調のアッパーなギターサンプルが鳴り響き、それに呼応するようにラップとスクラッチにも勢いのある縦ノリなトラックだ。これも同じく政治的な内容で、現在も投獄されているアメリカ先住民の活動家LEONARD PELTIER氏の開放を訴えている(ちなみにAIMはAMERICAN INDIAN MOVEMENTの略で、タイトルは「狙い」という意味のAIMとかけている)。音楽でのアメリカ政治批判は最近多いし、聞き飽きた感があるがADEEMのリリックは賢く、回りくどさが一切無いところが良い。

4曲目からは全体的に落ち着いてくるが、GLUE特有の心地良さを保ちつつ、メンバーそれぞれの進化した姿を味わうことが出来る。”EARLY MORNING SILENCE”のハイライトとも言えるDQのスクラッチは不思議に切なく感動的で、見事なものだ。彼は最も過小評価されているDJの中の一人かもしれない。”HOLDING THE HORIZON HOSTAGE”ではADEEMのラップにいつになく怖さと緊張感が漂っている。夜が似合いそうな”STILL EYES”ではMAKERの流れるように変化するドラムがひたすら渋い。さらにこの曲ではPAUL MORTONという男性ボーカリストとADEEMの掛け合いが見事にトラックに噛み合っている。最後の”AIN’T NOTHING PROMISED ABOUT TOMORROW”と加えて、ADEEMのボーカルは凡人に真似出来るレベルではないことだけは確かなようだ。

“SECONDS AWAY”とほぼ同じものを期待する人には気に入られない可能性もあるが、進化したGLUEのサウンドを堪能するには充分すぎるEPだと言えるだろう。

(Ais Duke)