GOVERNOR BOLTS “A CROOKED MILE”

このGOVERNOR BOLTSことPAUL THE APOSTLEが、DJ MOVESとのコンビネイションで作り上げたカナディアン・ヒップホップクラシックが、この”A CROOKED MILES”だ。元々GOVERNOR BOLTSと言う名は、PAUL THE APOSTLEのライムに登場する変態キャラの一つだった訳で、別人格を持つラッパーは多いが、彼の場合その人格が元の人格を乗っ取ってしまった珍しい例である。

ともかく、このアルバムでは色々なキャラクターを演じていて、それがこのアルバムの際立った特徴の一つになっている。まず、そのアル中でセックス狂のGOVERNOR BOLTSが登場するのが、”ENTER GOVERNOR BOLTS”と、BUCK65が彼の別人格である、これまたセックス狂の中年男UNCLE CLIMAXで参加した”MAKING LOVE TO YOUR HARD DRIVE”だ。”ENTER GOVERNOR BOLTS”ではマネキンにソソられた彼の悲しくも滑稽な物語を語り、”MAKING LOVE….”ではBUCK…イヤ、UNCLE CLIMAXと共にコンピューターを犯す。2曲ともヒップホップ史上に於いて、最もクリエイティヴな曲の一つ(二つ?)だろう。ドープ!他にも、”CANADIAN WEREWOLF IN WONDERLAND”では不思議の国の狼男、”DOMESTICATED MANIMAL”では飼い猫を演じている。勿論そんな変態物語だけでなく、10代の恋愛における暴力や殺人を扱った”TEENAGE ANGST”などでは、シリアスな題材をライムしている。

ビート面で最もタイトなのは、ワックMCモノの”THE IDIODYSSEY”だろう。MOVESの最良の仕事が聴けるこの曲で、2人はヒップホップの基本とも言えるトピックに新たな息吹を吹き込んでいる。

MOVESの仕事がもう少し充実していれば、文句の付け様の無いアルバムになっただろうが、それを差し置いても充分にドープなアルバムだ。声を変え、キャラを変え、フロウを変え、とにかく多彩な面を聴かせるGOVERNOR BOLTSに圧倒させられる一枚だ。彼は今後もこの名前でやってゆくのか?マア、どんな名前でもドープなモノを提供し続けてくれる限り大歓迎だが。