JOSH MARTINEZ “MADE IN CHINA”

カナダの変わり者が集まるハリフィックス。BUCK 65やSIXTOOが有名だが、このJOSH MARTINEZも負けず劣らず変わっている。特徴的な声に奇妙なフロウ、とにかく個性的だ。カナダのヴェテランDJ MOVESと共に経営するレーベル、LOW PRESSUREから、初と言って良いプロフェッショナル・リリースだ。

”歌うようなフロウ”とは良く使われる形容だが、このJOSH MARTINEZにこそ相応しい。LATYRXのLYRICS BORNに似てはいるが、オリジナルな物として昇華している。DEESKEEによるジャジーなループが良い”(SIC)MUSE”、普通でいる事に対して疑問を呈する”OUTLOOK”等で顕著だが、ピアノが美しい失恋モノ”BREAKDOWN”では、そのフロウが感情を浮かび上がらせていて感動的ですらある。正に真骨頂。ポエティックな”CHICKENSHIT”、ホーンやオルガンがドープな”CHORD CHANGES”、スローなトラックに走るハイハットが面白い”LETTER TO JULY”もドープだ。

ゲストモノを幾つか。TACHICHIがいつになくアグレッシヴなデリヴァリーを聞かせる”THE CLUUUUUB”は今ひとつ。そのTACHICHIがサビで色を添える”WEED WEED”では、CYPRESS HILLばりにマリファナの合法化を歌う。THE GOODSのKUNGA 219との”BIG MOUTHS”は、評論家気取りのヘッズ達への辛辣なメッセージ。

そして最後の爆弾。アルバムの幕引きは、10分近い大作”DENY”以外に考えられない。目まぐるしく変化するMOVESのトラックに合わせて、第二次大戦中のナチスによるユダヤ人虐殺から、当時のカナダ政府の過ちにまで言及した一大叙事詩。RAS KASSの”NATURE OF THE THREAT”に匹敵する、インスタント・クラシックだ。

多彩なフロウで聴き手を飽きさせないJOSH MARTINEZだが、トラックもキャッチーでソウルフル。ドープなモノが揃っていて、聴き所満載だ。ANTICONに近いアーティスト、というと小難しい感じを想像する人もいるかもしれないが、このアルバムは非常に取っ付き易い。お勧めだ。