KANYE WEST “THE COLLEGE DROPOUT”

シカゴ出身、KANYE WESTのデビュー・アルバム。

ヘリウム声のようなソウル・ネタ45回転使いに代表される彼のトラックだが、それはあくまでも掴みであって、そこから滲み出る人間味は決してフォロワーには真似の出来ないモノだ。”JESUS WALKS”や”NEVER LET ME DOWN”で語られる彼の信仰心の深さが如実に反映されているのだろう。表面はなぞる事が出来ても、その背後にあるモノ、彼の内包するモノを再現する事は不可能だ。KANYE WESTのネタ選びのセンス、使い方の上手さ、バイオリンやギター、クワイアまで導入された彼の音楽性は、正に普遍的な魅力を備えている。

MCとしてのKANYE WESTは、あくまで”味”で勝負なタイプ。決してリリカルでもスキルフルでもないのだが、トラック同様ユーモアを散りばめた人間臭さが、多くのスキットを挟みつつ、自らのパーソナリティを描き切る。大学中退という経歴を自信たっぷりに笑い飛ばす”SCHOOL SPIRIT”や、アルバム・タイトルに表れている彼の自虐的なユーモアは、交通事故で「バニラ・スカイのトム・クルーズみたいな顔」になった時の経験を語る”THROUGH THE WIRE”で最高潮を迎えている。

ゲスト参加曲では、相変わらず凄まじいTWISTAと何故かやたら歌の上手いコメディアンJAMIE FOXXをフィーチャーし、タイトル通りスロウ・ジャムで有名なR & Bアーティストの名を散りばめた”SLOW JAMZ”と、MOS DEF(以前よりアグレッシブになった?)、FREEWAYのワード・プレイにHARLEM BOYS CHOIRが厳粛なまでの存在感を与える”TWO WORDS”の2曲が特に素晴らしい。誰を招いても、決してゲストに寄りかかった楽曲にならない辺りは流石と言わざるを得ない。

ラップもするプロデューサーは掃いて捨てるほどいるが、KANYE WESTはデビュー作”THE COLLEGE DROPOUT”にて新たなスタンダードを作り上げた。彼自身は人を唸らすようなMCでない事もあって若干退屈な瞬間もあるのは確かだが、隙のない構成とプロダクションがそんな不満を徐々に頭の隅に追いやってくれる。なんにせよ、今ポップ・マーケットに於いても最も旬なプロデューサーが、これほどパーソナルなアルバムを出して来た事も驚きだ。