KID KOALA “LIVE FROM THE SHORT ATTENTION SPAN AUDIO THEATRE”

自身のミックステープ”SCRATCHCRATCHRATCHATCH”をきっかけにNINJATUNEの秘蔵っ子としてデビューして以来、その我が道をゆくDJスタイルで異彩を放ち続けてきたカナダ出身のスクラッチ小僧、KID KOALA。サンプラーには手を付けず、ターンテーブルを自分の楽器に選んだ彼の音楽は暖かく、アナログなグルーブ感に満ちている。次々に入れ替わるレコードや、ヘッドフォンを使わずにプレイする姿はバトルDJを連想させるが、彼のユーモア溢れるギミックはむしろ、コメディアンがギャグで客を笑わせるような感覚に近い。

今回のライブ映像は、2003年のツアー中にイギリスで収録されたものだ。P-LOVE、DJ JESTERを引き連れ3人で8台のターンテーブルを演奏するステージの向かいには、まるでディナーショーの様に、客用にテーブルと椅子が用意されている。なんと途中でビンゴゲームもあったようだ。このセッティングはKID KOALA本人のアイディアらしいが、彼の曲をライブで聴くにはうってつけだし、フロア向けの音楽じゃなくても十分に客を楽しませられることを再認識させてくれる。

“PAGE 275″はKID KOALAが書いたコミック本”NUFONIA MUST FALL”のサントラから。プロジェクターで275ページ目が映し出されるオマケ付きだ。本人がマイクを握ってシーンの説明をした後、椅子に腰掛けて左手でピアノを弾きながら、右手はターンテーブルでメロディーを演奏するというユニークな技をさりげなく披露している。KID KOALAがレコードのトーン溝に針先を落としていく音(いわゆるNEEDLE-DROPPING)に、P-LOVEのスクラッチ(恐らくDELTRON 3030ネタ)が上手くブレンドしていて、結構面白い。”PAGE 275″の静けさに対して、もう少し主人公の感情が表れるシーンの”PAGE 2982では、曲も音色豊かになっている。P-LOVEがアコーディオンをスクラッチし、バイオリン系のサンプルを使った2枚使いに移行しながらメロディーを奏でるところは見所だ。

“DRUNK TRUMPET”と”SKANKY PANKY”は、コミック本のサントラとは対照的にアッパーなナンバーだ。「彼らは昼間に寝て、夜に愛し合います。私達の多くと同じように。」というコアラについてのナレーションで始まり早々、客の笑いをとっている”DRUNK TRUMPET”。スイングビートの上で、まさに「酔っ払ったトランペット」と呼びたくなるスクラッチで観客をロックする、KID KOALAの独壇場だ。しかも、おもちゃで遊んでいる子供みたいな笑顔を絶やさない。次から次へとスクラッチで捻られていくトランペットの音は、彼の強烈なオリジナリティーを象徴していると思う。”SKANKY PANKY” はセカンドアルバム”SOME OF MY BEST FRIENDS ARE DJ’S”からのカットで、一言でいうと「ローファイなスカ」。DJ JESTERが2枚使いで奏でるベースに、KID KOALAとP-LOVEがホーン等の上ネタをスクラッチするこの曲は、スクラッチがリアルタイムのサンプリングであることを思い出させてくれる。途中でKID KOALAとP-LOVEがそれぞれ披露するテンションの高いスクラッチソロもカッコよく、客をかなり沸かせている。

ライブ映像を通して、誰かと勝負するとか、何かを証明するといったメンタリティーは一切感じられない。映像からはKID KOALAがDJである以前に、生粋のエンターテイナーであることが良く分かる。テクニックの複雑さ等に固執せずに、独創的な自分の世界を作り出している。わずか20分程のライブ映像でも、短い時間の中でかなり楽しめる内容だ。唯一残念なのが、ライブ映像に収録された5曲がそのまま入っただけのCD。DVDにはライブ映像以外にビデオクリップ (”FENDER BENDER”、”BASIN STREET BLUES”) 等も収録されている。

(Ais Duke)