MCENROE “DISENFRANCHISED”

インスト・アルバムやEPを経て、遂にリリースされたMCENROEのデビュー・フル・レングス!

筆者も含めて、ラッパーとしてのMCENROEのファンという人は殆どいないだろうが、このアルバムを聴いて、彼を侮っていた事に気付かされた。特に、ポップスを聴いていた普通のリスナーだった彼がパンクを通ってPETE ROCK & CL SMOOTH”MECCA & THE SOUL BROTHER”でガキの音楽だと思っていたヒップホップにハマり、自分もビートを作り出して現在に至るまでの心情やヒップホップへの思いを綴った”WANDERING EYES”は、彼と同じような思いをヒップホップに対して持つ筆者のような人間にとって、心の芯まで共感出来る素晴らしすぎる逸品だ。”MECCA & THE SOUL BROTHER”を始めて聴いた時の様な感動を「もう一度味わう事があるのか?」とヒップホップの現状を嘆きつつ、「ヒップホップには音楽のイロハを教わった/ヒップホップが無かったら、アル・グリーンのファンにはなってなかった」とヒップホップへの絶対的な信頼を捨てない辺り、堪らないモノがある。ドープ!

他にも、自分の音楽に対する自信を強烈に感じさせる”CAN’T GET THERE FROM HERE”に”SOMETHING TO COMPLAIN ABOUT”、ビデオ撮影に着て行く服を何にしようか悩みつつ、ヒップホップに対して意見する”WHAT WILL I WEAR?”、アメリカ至上主義に対する辛辣な”FOR SERVICE IN ENGLISH, PRESS ONE”、駆け落ちソング”LET’S PAWN THE BRACELET (AND HEAD FOR VEGAS)”、常套句”REAL”を皮肉った”THE REALEST”など。

プロダクションに関しては、ただ素晴らしいの一言。ギターやオルガン(そして勿論、ウッドベースも)など生楽器を今まで以上に多用し、練りに練られた構成などはMCENROE以外の何物でもない完全にオリジナルなサウンド・スケープだ。深い!音楽的にかなり成長していてどれも文句の付けようがない。他人のプロダクションでは単調に感じる事もありそうなフラットなMCENROEのフロウも、自身のプロダクション上ではより輝きを増していて、正にプロデュースの極意を体現している訳だ。

アルバムの隅々までMCENROEの持ち味が染み入った、恐ろしいまでの完成度を誇るアルバムと言ってよいと思う。短くない彼のキャリアに一つの区切りを付ける、正に金字塔。