MF GRIMM “THE DOWNFALL OF IBLIYS : A GHETTO OPERA”

発売が大幅に遅れたという事以上に、このアルバムを待ち侘びていたヘッズは多いのではないだろうか。90年代の初めからKMD周辺で本格的な活動を始め、KOOL G RAPのアルバム”4,5,6″への客演、FONDLE EMからのシングル、旧友MF DOOMとの作品など、多くの印象的な作品を残しているMF GRIMM。壮絶な私生活を経て、遂にデビュー・アルバム”THE DOWNFALL OF IBLIYS”が届いた。

派手さのないMF GRIMMのデリヴァリーから、何とも言えぬ凄みを感じるのは筆者だけだろうか。現在も堀の中に捕らえられている彼の口から語られるストリート・ライフにおけるドラマは、その冷静な語り口によってより重みを増す。彼が師と仰ぐKOOL G RAPからの影響を強く感じるリリックだが、思慮深い”TIME AND SPACE”や”VOICES PT.0″などでは彼独自の持ち味が堪能できる。最も感情的なのが、シャバで待つ女性への思いを淡々とライムした”I.B.’S”。真摯な告白が心をうつ名曲だ。ハードなモノでは、自らサビをヘタウマに歌い上げる”TOGETHER”などは、「売られた喧嘩は買う」的リリックとほのぼのとした曲調が逆に不気味だし、”RAIN BLOOD”なんかはタイトルが全てを物語っている。

大部分のプロダクションを担当するのは、勿論METAL FINGERSことMF DOOM。自身のアルバムでも80年代への思いが強く感じられたが、今回もそうしたトラックは”LIFE AND DEATH”や”FOOLISH”、”VOICES PT.0″、”PT.1″などで聴ける。そんな中、哀愁を感じさせる”I.B.’S”がベストだ。ドープ。他には、DJ ELIによるスムースな”YES YOU ARE”、ハードなDJ BUTCHERによる”FREEDOM”など、聴き所には事欠かない。

トラック的にも充実しているが、主役はなんと言ってもMF GRIMMだ。確実な彼のデリヴァリーとパーソナルなライムは、聴く者を完全に魅了する。俗に言う”サグ・ラッパー”が最早、彼らが身に付けるゴールドチェーン以上にギミックと化した今だからこそ、そうした生き方の行き着く先を身をもって体験したGRIMMの言葉は心の奥底に訴えかける。