MF DOOM “OPERATION DOOMSDAY”

デビューにしてクラシックとなった”MR. HOOD”という名作アルバムを残しているにも拘らず、セカンド・アルバムのジャケットに端を発する発売中止、メンバーのSUBROCの悲劇的な事故死など、幾多の不幸に見舞われたため活動不能に陥り、人々の記憶からは徐々に消えていった不遇のグループ、KMD。SUBROCの実の兄でもありKMDの顔でもあったZEV LOVE Xはそういった困難を、仮面を被り名前をMETAL FACE DOOMと改める事で過去へと葬ろうとしているのだろうか。

アルバムを華々しく飾るのは、タイトルトラックの”DOOMSDAY”だ。とにかくドープなプロダクションに、DOOMのエナジー溢れるライム・フロウ。ヒップホップ・クラシックをココまでフレッシュに使った曲がこれまであっただろうか?続く”RHYMES LIKE DIMES”も、爽やかなループが逆に妖しさすら秘めて聴こえる訳で、DOOMの舌足らずなフロウもとにかくフレッシュ。レーベル・オーナーのBOBBITOも、非常に楽しそうだ。”THE FINEST”、”GO WITH THE FLOW”、”THE M.I.C.”、”DEAD BENT”なども、ただただドープの一言。マッシヴなドラムの打ち込みが何とも言えない”OPERATION: GREENBACKS”なんかは、リスナーの神経を逆撫でしてるかのよう。KURIOUSとの”?”の今は亡き友SUBROCに捧げられたDOOMのライムは、ハッピーなトラックによってより深く響く。「手にしたロウソクの光で/燃え尽きるまで俺はライムを書く」。

埃っぽいハードでダークなトラックも同様で、MF GRIMMと共にピッチの刻々と変化するトラックにガッチリと食いつく”TICK, TICK…”、自身のクルーMONSTA ISLAND CZARSをフィーチャーしたポッセカット”WHO YOU THINK I AM?”、”俺はマイクを3-Dにロックするために生きている”という”HEY!”と、極めて適当に打ち込まれた定番ビートが、逆に途轍もなく新鮮に響く。別に、子難しい事なんてしなくても、ドープなモノは作れる事の証明だ。

DOOM本人が手掛けるトラックは80年代ポップス・ネタに満ちているが、当然ながら嫌味は全く無く、混じりっ気の無いヒップホップの香りがプンプン漂ってくる。いい加減なまでに無造作にループされたそれらのサウンドは、懐古趣味に留まらない強烈なオリジナリティを放っている。ライムにしても、基本はありふれた自己顕示、容赦ないワック叩きだが、それらは鉄仮面を通過する事で、完全にオリジナルなモノに昇華されている。要は、使い古されたモノを使って全く新しい何かを作り出す、というヒップホップの本質のみで作られたアルバムって事だ。これぞ、ノーギミック。