MOS DEF “BLACK ON BOTH SIDES”

MOS DEFを表現する言葉は沢山ある。知的なリリシストだとか、BLACK STARの片割れとか、ブルックリンの新たなスターだとか、RAWKUSを象徴するMCだとか….どう呼ぶかは人それぞれだろうが、端的に言って、彼は素晴らしいアーティストだ。ファンキーでスムースなフロウに、知的で練られたリリック。MCに必要とされる要素を全て兼ね備えている。かつて所属していたグループUTDで辛酸をなめた後、SHAWN J. PERIODとのシングルに加え、TALIB KWELIとのBLACKSTARで浮上したMOS DEF、ソロ・アルバムだ。

ヒップホップは俺達の状態を反映する鏡だ、という”FEAR NOT OF MAN”で幕を開けるこのアルバムは、素晴らしいリリックと音楽に満ちている。時にオーソドックスにライムし、時にソウルフルに歌うMOS DEFは、カリスマ性すら感じさせる程。ジャジーでスペイシーな”UMI SAYS”やロックが黒人音楽だという事を忘れるな、とライムする”ROCK N ROLL”(「ローリング・ストーンズを好きかもしれないが/ああいう音楽はあいつらが考えた訳じゃない」)、ポエティックなVINIA MOJICAとのデュエット”CLIMB”などは、彼のヴォーカリストとしてのポテンシャルを示している。

ストレートなライミングでも、一級な所を聴かせる。DJ PREMIERとの”MATHEMATICS”では、曲名通り数字に引っ掛けて「銀河は一つだが物事には2つの面がある/三振法で終身刑/去年は4人のMCが殺された、俺は5番目になる気は無い」と続ける。ドープ!キャッチーな”MS. FAT BOOTY”やBUSTAとの”DO IT NOW”も楽しいし、TALIB KWELIとの”KNOW THAT”も言う事なし。3部構成の地元賛歌”BROOKLYN”は、ヒップホップ好きには堪らない。

多様なプロデューサーを迎えながらも、アルバムはMOS DEF一色に染まっている。自身が手掛ける曲も、スター・プロデューサー達に全く負けていない(特に、88 KEYSとの共作インスト”MAY-DECEMBER”)。アルバムとして、非常に練られた完成度の高い逸品だ。