MOS DEF “THE NEW DANGER”

俳優など課外活動が多かったMOS DEFの、実に5年ぶりのセカンド・アルバム。 前作発表以降の活動などからも明らかだったように、今作はロック/ブルーズ色が色濃くなり、幅広いサウンドが聴けるアルバムに仕上がった。今回話題となりそうなのは、FUNKADELICのBERNIE WORRELLを筆頭に、BAD BRAINSのDR. KNOW、LIVING COLOURのWILL CALHOUN、DOUG WIMBISHという豪華メンバーを揃えたMOS DEF自身のスーパー・バンド、BLACK JACK JOHNSON絡みの4曲。個人的には、”ZIMZALLABIM”が気に入った。プロデュースがEASY MO BEEという事もあって、浮遊感タップリのヒップホップ・トラックとへヴィなギター・サウンドが、”ヒップホップとロックの有機的な融合云々…”といった類のレベルではないが、上手く機能している。”WAR”は、前半と後半でヒップホップ・パートとロック・パートを分けたためかシックリ来ないが、MOS DEFのソウルフルな魅力が爆発するラブ・ソング”THE BEGGAR”や、ノイジーなギター全開のインタールード的な”FREAKY BLACK GREETINGS”は、お蔵入りになったBLACK JACK JOHNSONのアルバムを聴いてみたいと思わせるに十分な出来。

BLACK JACK JOHNSONが絡んでいない非ヒップホップ・トラックでは、SHUGGIE OTISのギターを交えた”BLE BLACK JACK”、白人ハーピスト/ピアニストPAUL OSCHERを迎えた”BEDSTUY PARADE & FUNERAL MARCH”という2曲のブルーズ・ナンバーが、個人的には、メタリックなロック・サウンドよりもMOS DEFの個性を活かしきっていると思う。艶のあるソウル・ナンバー”THE PANTIES”しかり。

純粋なヒップホップ曲の方はと言うと、BLACK JACK JOHNSONのアルバムがお蔵入りになったフラストレーションが、そのまま音に表れているかのように、ビックリするぐらいラップに魅力を感じない。と言うか、素直に”下手”になった様に感じるし、心此処に在らず、といった感じだ。伸び伸びと歌い上げる非ラップ曲と比較してもそうだし、多くを手掛けるMINNESOTAのトラックは個人的にあまり好みではない事もあって、ロック/ブルーズ路線ほど楽しめなかった。唯一の救いは、アルバムのベスト・カットがラップ・トラックである事。”MODERN MARVEL”がそれで、MARVIN GAYEとチャネリングするかのような繊細なアカペラの導入部で押し殺した感情を、後半で爆発させる素晴らしいラップを聴かせてくれる。10分近いこの曲でMOS DEFは、世界のために祈り続けたMARVIN GAYEに今の現状をどう説明すればいいのか、と嘆く。

本作は、COMMON “ELECTRIC CIRCUS”やOUTKAST “SPEAKERBOXXX/THE LOVE BELOW”といった作品の延長にあるアルバムであると言って良いのだが、決定的に違うのは、COMMONやOUTKASTが様々な方向から”取り込んだ”のに対し、MOS DEFは自ら”外に出て行った”点だ。これが、ラップ曲がつまらない原因でもある。前作に収録された”ROCK N ROLL”で、「ロックは黒人の物だ」と声高に叫んでいたMOS DEFの事だから、直接的なロックへのアプローチは、ロックを黒人の手に取り戻そうという意図があるのだろうが、そのせいで、元々彼のラップの最大の魅力であった歌心が、非ラップ曲に吸い取られたかのようだ。野心的なアルバムではあるし、アルバムに一貫して流れるブルージーな空気は好きなのだが、結果として非常に中途半端なアルバムになっている。このアルバムが成功作か失敗作かと問われれば、”MOS DEFのアルバムとしては”失敗作だと言わざるをえないかな。