PEANUT BUTTER WOLF “MY VINYL WEGHTS A TON”

STONES THROWの主催者として、RASCOやLOOTPACKを送り出してきたPEANUT BUTTER WOLF。サンフランシスコ・シーンが注目を集めた事に最も貢献した人間の一人は、間違いなく彼だろう。これまでも、純粋なブレイク集を数多くリリースしてきた彼だが、このデビュー・アルバムは、そんな彼のキャリアを総括した物といった趣が強い。

このアルバムの特徴は、DJとMCが完全に対等に扱われている点だ。MCメインでもDJメインでもなく、かといって所謂インスト・アルバムのようにトラックで聴かせる訳では勿論ない。RASCOとの”RUN THE LINE”では、Q BERTのスクラッチがRASCOと同等の存在感を放っているし、”MOBBIN’”でのVIN ROC、”COMPETITION GETS NONE”のSHORTKUTも同様だ。とはいえ、やはり最大の目玉は東西は勿論カナダからも猛者が多数参加した9分に及ぶ一大セッション”TALES OF FIVE CITIES”だろう。次々と変化するトラックもさることながら、それぞれのDJ達の多種多様な擦り(スキルについては言うまでもない)は圧巻で、これだけのメンツが一堂に会しながらも飽きさせない構成も見事。正に必聴だ。

PEANUT BUTTER WOLFのトラックは、彼のファンク/ジャズ/ソウル、そしてオールドスクール・ヒップホップに対する豊富な知識、愛情に溢れている。LOOTPACKとQUASIMOTOをフィーチャーした”STYLES, CREW, FLOWS, BEATS”はその最良の形だが、オールドスクール感に満ちたPABLOとの”ROCK UNORTHODOX”、今は亡き相棒CHARIZMAのフロウが古き良きブロックパーティーの空気を蘇らせる”KEEP ON ROCKIN IT”、ソウルフルな”BREAKS ‘EM DOWN”をはじめ、数々のインタールードも最高にファンキーだ。

PEANUT BUTTER WOLFは、MCに比べてDJが軽視されている最近の傾向に対しての、一つの回答とも言えるアルバムを作りあげた。ヒップホップの原点であるDJとブレイクビーツが、このアルバムには詰まっている。土臭いブレイクに埃っぽいループの数々に、ただただ唸らされるばかり。様々なアーティストを、彼のプロダクションが包み込むように一つにまとめ上げている。所謂プロデューサー主導のアルバムとは、完全に一線を画した傑作だ。