PUBLIC ENEMY “IT TALES A NATION OF MILLIONS TO HOLD US BACK”

ヒップホップの歴史上最も重要なグループの一つPUBLIC ENEMYによる、ヒップホップ史上最も重要なアルバムの一つ。”IT TALES A NATION OF MILLIONS TO HOLD US BACK”は、そんな特別なアルバムである。

カリスマ性溢れるCHUCK Dは、このアルバムでその才能を完全に開花したと言って良いと思う。デビュー作よりもアグレッシブに、そして洗練されている。”BRING THE NOISE”や”REBEL WITHOUT A PAUSE”といったキラーチューンでのCHUCK Dのカッコ良さは只事ではない。強烈な自己顕示ライムに、全てをなぎ倒さんばかりのCHUCK Dのフロウ、様々なノイズを重ねて完全にオリジナルなサンプリング・カオスを作り出すHANK SHOCKLEEのトラック、全てが一体となり、リリースから15年以上経った今でも恐ろしいほどのパワーを放っている。FLAVER FLAVも元祖ハイプマンとしてCHUCKに負けない存在感を放っているし、TERMINATOR Xのスクラッチも素晴らしい。これほどまでに楽曲と有機的な融合を果たしたスクラッチはヒップホップ史上初なのではないか?彼の名前を冠した”TERMINATOR X TO THE EDGE OF PANIC”は勿論、”REBEL WITHOUT A PAUSE”での印象的なスクラッチも外せない。

PUBLIC ENEMYの政治的メッセージを前面に押し出したヒップホップ史上初のコンセプト・アルバムとしても知られる本作は、ルイス・ファラカーンやマルコム・Xといった直接的引用を引き合いに出すまでもなく、ブラック・ムスリムの理念が色濃く反映されている。この辺のメッセージは日本人にとって馴染みの薄い所ではあるが、本作を切っ掛けに歴史を紐解いた人間も少なくないはず(筆者もその1人)。同胞に薬を売る売人を批判した”NIGHT OF THE LIVING BASEHEADS”、徴兵制を拒否し投獄されたCHUCK D自身の体験を基にした”BLACK STEEL IN THE HOUR OF CHAOS”の2曲が個人的なお気に入り。ブラウン管の中に現実逃避する女性を描く”SHE WATCH CHANNEL ZERO”などは今聴くと、昨今のラップ・メタルの流行を見透かしていたようにも聴こえる。

ヒップホップのみならず、全てのポップ・ミュージックに多大な影響を与えたこの”IT TALES A NATION OF MILLIONS TO HOLD US BACK”は、ヒップホップという音楽に少しでも興味を持ったら義務のようなモノだ。素通りは許されない真のクラシック。