30分程のツアー・ドキュメンタリー本編は、主にツアー先の映像やADEEM、BLUEPRINT、MR DIBBSのインタビューで構成されているが、それほど面白い物ではなかった。GLUEやBLUEPRINTのライブ映像が断片的にしか収録されていないのも不満。面白かったのは、アリゾナ州フェニックスでのMCバトルでの、白人のラッパーがネイティブ・アメリカンのラッパーに対して居留地ネタなど差別的な内容のライムで攻撃した事が発端で起きた乱闘騒ぎくらいかな。
特典映像は本編より長くて、1時間に渡ってMCバトル地区予選の模様が各都市ごとに収められている。正直、見る価値のないものも多く、何故こいつが決勝に?と思わせるMCも少なくないのだが、もの凄くレベルの高いバトルも幾つかある。中でも、ニューヨーク、ロス、サンフランシスコの3都市は流石にレベルが高く、見所満載。本編中でのインタビューでもADEEMが”気になったドープなMC”として名を挙げているIRON SOLOMON、NOCANDO、THE SAURUSの3人は特に要チェック。3人とも、発声、ブレス・コントロール、巧みなライム構成など、どこを取っても素晴らしいの一言だ。中でも、病んだユーモアとエナジー溢れるフロウがとにかくドープなIRON SOLOMONが一番のお気に入りだ。とはいえ、ハイライトは全てのMCが高いレベルを誇るロサンゼルスかな。優勝したNOCANDOは知的さが垣間見れるトップ・オブ・ザ・ヘッドが別格だが、レイドバックしたスタイルと流れるようなフロウがドープなTRIUME、異彩を放つSEEFORなど、ロスのシーンの充実振りには驚かされる。他にも、鋭い切り返しを聴かせるBO RATも以前のSCRIBBLE JAMの時より成長してるし、シカゴのはずなのに何故かニューヨークの予選に出ているPRESENCEもさすがベテラン、安定している。
さて、コンピ・アルバムの方には、馴染みの面子から新顔まで、幅広いアーティストの新曲を収録。一番気に入ったのは、北カリフォルニアのFRANCOによる”SHORT VOYAGE”だ。EQUALIBRUMによる映像を喚起させるトラックも素晴らしいし、バトルで既に有名なFRANCOも、レコーディング・アーティストとしても成功するであろう可能性を感じさせるパフォーマンスを聴かせてくれる。まるでロード・ムービーを見ているような佳曲だ。ミネアポリスのSENSE OF SOUNDも面白いし、MUSABやMAC LETHAL、GLUE、MAKERといったお馴染みの面子も質の高い楽曲を提供している。
本編であるはずのドキュメンタリー部分が最も退屈というのは皮肉だが、MCバトルやコンピ・アルバムは満足のいく出来で、そういった意味ではバランスが取れているかもしれない。DVD + CDという形態を取ったのも、それが分っていたからなのかも知れない。