AESOP ROCK “FLOAT”

寄せ集め的な”MUSIC FOR EARTHWORM”、EPといった方がシックリ来る”APPLESEED”。このMUSHからの”FLOAT”が、ニューヨークはロング・アイランド出身、AESOP ROCKの実質なデビュー・アルバム。前作で聴けた、あの独特のムードが倍以上のヴォリュームになって帰って来たわけだ。

イントロでの声明、「周りの連中が溺れるのに忙しい間に/俺は浮かぶ…」に続き、”COMMENCEMENT AT THE OBEDIENCE ACADEMY”は、勢いのあるトラックがドープだ。シンコペイト・ビートで倍速フローを聴かせる”BIG BANG”はあまり好みじゃないが、AESOP自身の手によるクソドープなトラック上で自分を取り囲む「ゴミの街」について描写する”GARBAGE”が前半のハイライト。SLUGが参加した”I’LL BE OK”はハーモニカ・ループが新鮮で、SLUGは相変わらず達者だ。的を得たゲストの人選もこのアルバムの特筆すべき所で、”ATTENTION SPAN”では、CANNIBAL OXのVAST AIRが病んだラインをキック、その特徴的な声とAESOPとの対比がドープ。DOSE ONEが前作に続き参加した”DRAWBRIDGE”も同様で、コラボレイションの見本のようである。”BASIC CABLE”はテレビの害についてライム。「でかい画面小さい画面どんなのでもいい/リモコンを握らせてくれればお前を殺さなくて済むから」….ドープ。レゲエ調のリズムが面白い”SKIP TOWN”はOMEGAのプロデュース。歌うようなサビがドープで、AESOPの真骨頂。どこか遠くに行きたくなる欲望をライムしたこの曲は、ニューヨークや東京のような大都会に住む者の共感を呼ぶだろう。トラック的には、”HOW TO BE A CARPENTER”がベストだ。何も言う事はない、ただ聴いて欲しい。ラストの”THE MAYOR AND THE CROOK”もドープ、心地よい余韻を残してくれる。

どうしても、強烈な個性を持つAESOP ROCKに耳が行くが、是非BLOCKHEADのトラックにも注目して欲しい。全体的に少しドラムが弱いが、短い中で起承転結を見事に付けていく辺りは、とにかく素晴らしい。彼もAESOP同様、これからのニューヨーク・シーンを担う存在になるだろう。

しかしながら、欠点もある。まずは音質。勿論、ホームメイドなアルバムである以上仕方ないし、普通なら気にならないのだが、このアルバムほどの完成度だと完璧を求めてしまう。特にヴォーカルの録音状態の悪さが気になってしまった。”FASCINATION”、”6B PANORAMA”等、数曲の弱いトラックも、このアルバムにおいては余計に目立つのだ。欲張りすぎ?とはいえ、あらゆるリスナーにとって必聴のアルバムであることには違いない。まだ聴いた事のない人は、焦った方がいい。