ADEEM “THE FIRST FEW INCHES”

ニューハンプシャーの片田舎出身、ADEEMなる名を持つ無名のMCが一躍”要注意MC”のリストにランク・インしたのには、勿論スクリブル・ジャム98年度MCバトル・チャンプと言う肩書きと共に、この宅禄カセット・アルバムが一役買ったと言える。相棒SHALEMと共に作り上げたこの”THE FIRST FEW INCHES”は、そのタイトル通りスタートでしかないのだが。

まずは”FREEHAND SIDE”は、DJ SHALEMがターンテーブルで刻むオリジナル・ブレイクに乗せて、ADEEMが十八番と言える即興を延々と続けると言う構成なのだが、単純に素晴らしい。それも、ありがちな”パンチラインに次ぐパンチライン”ではなく、コンセプチュアルなテーマを様々なアイデア/デリヴァリーで放出、SHALEMが繰り出す数々の定番ブレイクも、それだけで飽きさせない。後半、ユタのADVERSEとの掛け合いもタイトだ。

さて、”LONGHAND SIDE”だが、こちらはオリジナル録音を収録している。シンプルな”REMEMBER”は、”睡眠は弱さの表れ、だから騒音が俺を寝かさない”といった一節が光るポエテックな一曲。”BLIND WALK”には、DJ MAYONNAISEが混沌としたトラックを提供、ADEEMも負けじとアグレッシヴにライム。疾走するパーカッションがドープな”PULSE”、ホーンが不安を煽る”HYPOCRITE”とダークな曲が続くが、ADVERSEとの”SUB WITE”は一転してユーモラスだ。郊外の白人MCにまつわるコミカルな物語を絶妙のコンビネーションで聴かせてくれる。ホーンがハッピーなムードに拍車をかけていてドープだ。最後は、ALIASが再びダークに締めくくる。サイケ・ロック色の強いALIASのプロダクションは当然のように素晴らしい。

とにかく、”FREEHAND SIDE”におけるフリースタイルが圧巻。その躍動感を”LONGHAND SIDE”でのレコーディング音源に収める事はまだ出来ていないが、練られたプロダクション、コンセプト、そして何より当代随一のデリヴァリーが堪能できる。