ADEEM “SWEET TALKIN YOUR BRAIN”

多くの優れたフリースタイル・パフォーマー達が、リリックを紙に落とす時点でその魅力を失ってしまうが、SAGE FRANCISがそうであったように、このADEEMもその点では全く問題ないようだ。スクリブル・ジャムで2度のMCバトル・チャンプに輝く天才フリースタイラーADEEM、堂々のオフィシャル・デビュー・アルバム。

彼独特の、ラップと歌の間を行き来する流れるようなデリヴァリーは、冒頭の”SWEET TALK”から全開だ。ゆったりとしたレイドバック・トラック上を無尽に泳ぎ周るADEEM。一転して緊張感溢れる”BROKEN RIGHT WING”ではアグレッシヴなフロウを聴かせていて、引き出しの多さを垣間見せる。時に様々な解釈が成り立つような彼のリリックだが、”YOUNGER DAYS”は明確だ。ここでADEEMは自らの幼少時代についてライム、ノスタルジックに80年代を回想する。MOODSWING9が何とも怪しいトラックを提供した”FADE AWAY (A ROUGH DRAFT)”は、正にマスターピース。オーガニックなサウンド・スケープも言う事ナシだが、主役はやはりADEEMだ。スローなビートに合わせ、時に激しく、時に囁くように、ヴォーカリストとして確実な成長を感じさせてくれる。

DJ MF SHALEM B(ADEEMやSAGEのDJ)、DJ MAYONNAISE、MOODSWING9などを中心に構成されるVINYL MONKEYSは、ADEEMのフレキシブルなデリヴァリーに合わせるかのように音楽的で素晴らしいプロダクションでADEEMをサポート。どれも甲乙付けがたいが、個人的には一曲のみの参加にも拘らずアルバムを最高の形で締めくくるSCOTT MATELICの”STARGAZING”がフェイヴァリットだ。

唯一”CYCLE”がアヴェレージに達していない点を考えても、”SWEET TALKIN YOUR BRAIN”が素晴らしいデビューアルバムである事に変わりはない。特筆すべきプロダクションの数々がでしゃばらずにADEEMの存在感を強固なモノにしているのは、類稀なヴォーカリスト/パフォーマーとしての自身の魅力をふんだんに盛り込む事に成功しているからに他ならない。新たなるマスターピース。