ATMOSPHERE “YOU CAN’T IMAGINE HOW MUCH FUN WE’RE HAVING”

前作”SEVEN’S TRAVELS”が、EPITAPHの流通のお陰か、売れに売れたATMOSPHEREの5作目。

ATMOSPHEREのレビューではいつもSLUGの素晴らしさを強調してきたように思うが、今回はANTの素晴らしい仕事振りに触れないわけにはいかないだろう。これまでは、あくまでSLUGのラップに”マッチする”トラックを提供してきたANTだが、今回は文句なく最高のトラックを提供してくれている。”WATCH OUT”や”BAM”、”THAT NIGHT”のように、ドラムで引っ張るタイプの楽曲に顕著なドラムの充実度、”SAY HEY THERE”や”GET FLY”で聴けるエモーショナルなアレンジなど、間違いなくANTの現時点でのベスト・ワークが詰まっている。文句なし。

SLUGの方はというと、”SAY HEY THERE”や”ANGELFACE”といったプレイボーイと駄目男が混在する恋愛悲喜劇を筆頭に、相変わらず安定したカッコ良さ。ATMOSPHEREのショウを見に行った帰りにレイプされ殺された16歳の少女の事を歌った”THAT NIGHT”は、緊張感のあるサンプルとハードなドラム、感情を抑えたSLUGのラップが三位一体となって、アルバムにダークでシリアスな要素を持ち込んでいる。

ベスト・トラックは、ANTのトラックも感動的な”LITTLE MAN”だろう。手紙形式のこの曲でSLUGは、息子、父親、そして自分自身に真摯な言葉を投げかける。ファースト・ヴァースでは「お前がママをずっとハッピーでいられるようにするのを見てきた/パパはお前からその秘訣を教わったよ/本当は、パパがお前に教えてやらなきゃいけないのにな」と、ツアーで家を離れる事の多い自分を恥じつつ息子ジェイコブに無償の愛情を示し、セカンド・ヴァースでは「自分の運命が怖いんだ、親父みたいにはなりたくない/女は絶対殴らないし、コカインもやらない/その点だけはアンタには感謝してるよ」と、父親に対する愛憎入り混じる感情を吐露。自らに宛てたサード・ヴァースでは、人生と音楽に疲れた自分に向って「”ありがとう”と言いたいトコだけど、”頑張れよ”とだけ言っておくよ」と希望を残す形で締めている。ドープ!

ここにきてやっとANTとSLUGの比重が均等になってきたと感じさせる、充実した出来だ。これといったキラー・チューンがないのがマイナスと言えばマイナスだが、アルバム全体の完成度で言えば1、2を争う出来と言っても過言ではない。余裕を感じさせる傑作だ。