SAGE FRANCIS “PERSONAL JOURNALS”

SAGE FRANCIS、正に待望のオフィシャル・デビューアルバムが遂にリリースされた。マトモなアルバムもなしに、ココまで注目されたラッパーも珍しいだろう。これまでに、彼のバンドART OFFICIAL INTELLIGENCEやJOE BEATSとのNON-PROPHETSでのリリースはあったが、ロード・アイランドから現れたこの屈折したリリシストの名を世界的なモノにするのに最も貢献したのは、スクリブル・ジャムでのMCバトル・チャンプという冠である事は疑う余地がないが、ANTICONの強力なバック・アップを受けたこの”PERSONAL JOURNALS”で彼は、フリースタイル/バトルMCとしてだけではなく、リリシストとして最大限のリスペクトを受けるだろう。

彼のリリックは時に複雑で個人的。”DIFFERENT”の「俺は他と違う、違った意味で/変わらないのは変化だけ」という一節や、引き出しにしまわれた手紙の物語”MESSAGE SENT”、”CUP OF TEA”での存在しない話し相手、直接的な”RUNAWAYS”などで垣間見える彼の孤独感は、妹との別れを後悔する”INHERITED SCARS”、幼い頃の母親との関係をライムする”BLACK SWEATSHIRT”などで綴られる子供の頃の体験が原因なのだろうか。それとも、”PITCHERS OF SILENCE”、”SPECIALIST”で赤裸々に語られる女性関係に端を発する自己嫌悪か。ともかく、一見感情的なSAGEは実の所、非常に客観的だ。歪んだユーモアは、”EVICTION NOTICE”、”KILL YA MOMZ”に集約される。

プロダクション面では、ANTICONのコンピレーション”GIGA SINGLES”にも収録されていた、DJ MAYONNAISE手掛ける”INHERITED SCARS”がやはり突出している。最も多い曲数を手掛けたSIXTOOや期待のJELとのコラボレーションは思ったより地味だが、SCOTT MATELICによる澄み切った冬の空といった趣の”BROKEN WINGS”や、哀愁漂うALIASとの”MESSAGE SENT”、相棒JOE BEATSがなんとも美しいメロディを聴かせる”RUNAWAYS”など、メロディアスな曲に良いモノが多い。

お馴染みのスポークンワードやライヴ音源だが、このアルバムでは逆効果。”SICK OF WAITING”シリーズでは楽しめたこういった曲は、ココではアルバムの統一感を損なうだけの存在になってしまった。が、それでもこのアルバムは期待に充分応えうるクオリティを誇っている。去年から最も期待されていたアルバムの一つであろう”PERSONAL JOURNALS”、待った甲斐はあった。