ENCORE “SELF PRESERVATION”

西海岸はベイ・エリアのリリシスト、ENCORE。渋い語り口も手伝って、非常に知的な香りのするMCだ。DAN THE AUTOMATERのレーベル、75 ARKからのデビューアルバムだ。

自らについて語るイントロダクション”THE BIO”で幕を開けるアルバムは、ENCOREの知的で染み入るリリックが最大の魅力だ。感謝の気持ちに満ちた”FOR YOU”を始め、ヒップホップへの真摯な愛情を語る”LOVE & HATE”、そしてICE CUBEのクラシック”US”を彷彿とさせる”THE VIEW”での同胞達へ向けた意識の高いメッセージなど、知的なライムをキックしながらもストリートの香りを忘れていない。物語を語らせても彼は一流で、”.084″では酒酔い運転の末交通事故を起こしてから救いを得るまでが詳細に語られてゆく。ドープ!”LOVE & HATE”からも分かるように、彼のヒップホップへの愛情は相当なモノで、そのヒップホップを侮辱するかのようなワックMCへの攻撃の手も緩めない。”ESOTERIC”や”SPORADIC”など、辛辣だ。彼ほどのスキルフルなMCでなければ説得力は持たないが、PEP LOVEとの”THE SITUATION”での類稀なワード・プレイが全てを語っているように思う。

一曲を除いてビーツを手掛けるARCHITECTはと言うと、”LOVE & HATE”や”.084″ではナカナカいい仕事をしているものの、ピアノがいい感じの”FOR YOU”は、不必要なホーンヒットがそれを台無しにしているし、待ったくグルーヴ感の無い”SPORADIC”など、正直言って失望が大きい。全体的にも際立ったトラックは無く、あまりに退屈だ。

充実した仕事振りのENCOREと比べて、トラックの弱さが非常に勿体無い限りだ。ENCOREのタイトなライムを持ち上げるには弱すぎる。そこは、次回作に期待したい。