SUPERNATURAL “NATURAL DISASTERS”

SUPERNATURALの名を聞いて思い浮かぶ事は?偉大なフリースタイラー/バトルMCとしての彼だろう。誰もが認める彼のフリースタイル・スキルだが、こと曲に関しては、”フリースタイラーはまともな曲を書けない”という議論の代表例に出される事が多くなってしまった。その最大の原因は、93年から95年頃にかけて録音され、97年にはリリースされる予定だったというこの”NATURAL DISASTERS”が、シングル”BUDDAH BLESSED IT”一枚出ただけでレーベル側(ELEKTRA)にお蔵入りさせられた事にあると思う。彼がフリースタイルだけのラッパーではない事は、この素晴らしいアルバムを一度でも聴けば明らかだ。

ストーリーテラーとしてのSUPER NATの実力が確かな事は、”BLACK AMPHIBIAN”一曲でハッキリする。しかも、ココで彼は水中でラップしているかのようなエフェクトで凄いフロウを聴かせて、我々の度肝を抜いてくれる。バトルMCとして余裕の実力を聴かせる”NATURAL DISASTERS”は、ワックMC達への災害警報。”虹が落ちるほど激しくラップする”という自己紹介的な”SUPERNATURAL”は、シンプルなトラックが彼のライム・スキルを一層際立たせる。ノーギミック、ドープ!言葉遊び的な”VERBS”は、彼の真骨頂。文字通り”歌い上げる”サビ(殆どの曲がそうだが)も決まっている。彼の真の実力が聴けるのは、コンセプチュアルな曲が続く後半にかけて。”THE WORLD DONE CHANGED”では、政治やストリートクライムの話を通して、世の中の変化に目を凝らせとライム。悪に対して宣戦布告する”SACRED WAR”、フリーキーなフロウが炸裂する”MISSION IMPOSSIBLE”では、1人2役でアクション映画の様な物語を聴かせるし、タイトル通りジャジーなトラックが最高に気持ち良い”THE JAZZY MAN”は、あるジャズマンの物語。淡々と語りかけるようなラップが味わい深く、アルバム全体を貫くジャズ・ネタの背後に彼のジャズに対する思い入れが伺える。”BUDDAH BLESSED IT”は、文句ナシに素晴らしい。レイドバックしたトラックがマリワナ・ネタのリリックと相まってまどろんだ雰囲気。SUPERNATが、リスナーを地上の悲惨な状況から銀河へと逃避行させてくれる”GALAXY”もドープで、最後のライヴ音源は…言うまでもない。

リリック、デリヴァリー、トラック、コンセプト、どれをとってもクラシックと呼ばれるに相応しいクオリティを誇るアルバムだ。曲ごとに声色、フロウを自在に変える様は、正に圧巻。それがギミックに聴こえない、MCとしての基本的なスキルの高さは言うまでもない。このアルバムが日の目を見なかったことは、彼にとってだけでなく我々リスナーにとっても不幸な事だ。彼ほどのMCが未だにまともな評価を受けていない事は、ヒップホップそのものにとっても大きな損失であると思うが。彼のクルー、ALIAN NATIONも含めて、これからの活発な活動で才能に見合うだけの評価を得ることを切に願うばかりだ。みんなが忘れないうちにね。