ESAU “THE DEBUT ALBUM…THE FAREWELL TOUR”

ノース・キャロライナから現れた謎のラッパー、ESAU。とりあえず顔を全く見せない彼だが、ラッパーとしてのスキルはこのアルバムで明らか過ぎるほど。

一曲目の”FIRST”は、タイトル通り聖書に登場するあらゆる「最初」についてライム。例えば、あのアダムとイヴについて「最初のカップルが、最初の殺人者で最初の難民になる最初の息子を生んで最初の親になって….」といった具合。大袈裟なトラックも、リリックの壮大な世界観を完全にバックアップしていて、クソドープだ。シンプルなトラックの”UNDERGROUND”も超強力で、ココではアンダーグラウンド哲学をキック。「アブストラクトってだけでアンダーグラウンドな訳じゃ無い/…/無名だろうが、契約してなかろうが、それだけでアンダーグラウンドな訳じゃ無い」、その通り。スムースなギター・ループが良い”I HATE”では世界の現状を、 “WHAT MORE CAN I SAY!”では、彼のヒップホップに対する愛情を歌っている。どちらも、勿論ドープ。

パンチラインで言えば、”I’M GOING TO HELL”と”ESAU VS. BLACKMEL”だ。”I’M GOING TO HELL”では、EMINEMのごとく人を怒らす様な事を連発し、強力なパンチライン連発の”ESAU VS. BLACKMEL”は、BLACKMELとのバトル。個人的には、「中途半端な中絶みたいな顔しやがって」というラインでBLACKMELに軍配を上げたい。再びシリアス・モードに戻って、”ME & MY BABY”では男女間の義務や責任を、”INDEPENDENTS”はインディ・アーティストの苦悩をライム、”BOO”は再び皮肉っぽいユーモア(「このアルバム、今んトコ3枚売った/このペースだと100万枚売るには69年と4ヶ月掛かる」)が炸裂。ESAUが宇宙人に誘拐される奇妙な物語”U.R. DESTINE”も、サビの女性ヴォーカルが良い感じで、不思議な雰囲気を醸し出す。スペイシーなトラックもドープ。

トラックが全体的に少し弱い点が勿体無い。”WHAT MORE CAN I SAY!”や”I’M GOING TO HELL”、得に”YOU AIN’T FLY”はかなり弱い。だが、”FIRST”、”UNDERGROUND”、”ME & MY BABY”、”BOO”等など、特別どうこう言うほどではないがドープなトラックが大半を占めている。

バトルモノや恋愛モノみたいな定番ネタからSFチックな物語や宗教的なのまで、幅広い題材をフレッシュに聴かせてくれる、正にリリカル・マスターピース。とにかくESAUは本当にドープで、全く隙の無いライムが詰まっているアルバムだ。願わくば次のアルバムでは、トラックも隙の無いモノにしてもらいたい。