EYEDEA & DJ ABILITIES “FIRST BORN”

中西部のMC達にとって、ある種登竜門になっているのが、スクリブル・ジャムのMCバトルである。あのEMINEMをはじめ、JUICE、RHYMEFEST、SAGE FRANCIS、ADEEM、MAC LEATHAL等など。このEYEDEAも、99年の大会で優勝した事によって、その名を世界的に知らしめた。そしてDJ ABILITIESも、そのスクリブル・ジャムでのDJバトルをはじめ数々のコンペティションで名を馳せてきた凄腕DJだ。加えて、ATMOSPHEREのライブ要員として無数のショウを経験してきた2人が、遂にデビューアルバムを発表した。

EYEDEAと言えばバトル・ライム、と思っている向きには”BLINDLY FIRING”と、BLUEPRINTをフィーチャーした”BEFORE AND AFTER”がある。どちらも、流石の出来。音楽賛歌”MUSIC MUSIC”、ヴェトナム帰還兵の物語”MURDER OF MEMORIES”、画家の目を通してアートを語る”COLOR MY WORLD MINE”等、クリエイティヴで素晴らしい曲が続く。

ベスト・トラックは、”READ WIPED IN BLUE”。ゆったりとしたあまりに美しすぎるトラックで語られる、父親への憎悪、幼い頃分かれた母親への郷愁の物語。これはEYEDEA本人の体験なのだろうか?「俺の母親は想像の世界にだけ居る…」、素晴らしい。このアルバムでEYEDEAは、ジョークやバトル・ライムだけのMCではない事を見事に証明した。

ABILITIESに関しては、トラック面よりやはりスクラッチが凄まじい。特に、EYEDEAの「俺のDJが何故ABILITIES(天性の才能)って名前か教えてやるぜ」という呼び掛けから激しいスクラッチに雪崩れ込む”BLINDLY FIRING”は、鳥肌モノのかっこよさ。”POWERED WATER TOO 2″、”COLOR MY WORLD MINE”辺りも素晴らしいし、唯一のソロ・トラック”WELL BEING”に関しては言わずもがな。それに比べトラックは、まだまだ発展途上にあると思う。十分ドープではあるが、EYEDEAのライムを乗せるのは少々勿体無い気がした、といったら言い過ぎか。ドラムはどれもクソドープだが。冬の寒空が目に浮かぶ様な”ON THIS I STAND “、前述の”READ WIPED IN BLUE”、”CLOR MY WORLD MINE”等が聞き所。全曲、これらの曲のレベルだったら、余裕でクラシックになり得たアルバムだろう。

結局、デビュー・アルバムとしては驚異的だが、クラシックまでは後一歩、という事。EYEDEAが素晴らしいためか、トラックの欠点が目立つ、というのが正直な所ではないだろうか。必聴、である事に変わりはないのだが。