IRA LEE AND FACTOR “CAFETERIA FOOD”

FREK SHOやDEAD CAN’T BOUNCEで知られるIRA LEEの、FACTOR全面プロデュースによるソロ・アルバム。

何より、IRA LEEの淡々としたラップが良い。特に特徴のあるフロウを持っている訳でもなければ、聞き惚れるような魅力的な声をしている訳でもないのだが、味わい深いデリバリーといい、しんみりと心に染み入るリリックといい、なかなか味のあるMCだ。うだつの上がらない知り合い連中を延々と挙げながら「俺は多分、一生中古車セールスマンで終わるんだ」とフックで繰り返す”USED CAR SALESMAN”に代表されるような地に足の付いたトピックを、アルバムを通して興味深く聴かせてくれる。感傷的に「親父は殺人者、彼女を永遠の眠りに/何故か自分が手を下したような感じだ」と病気で安楽死させられた愛犬MAGICについてライムする”MAGIC”も素晴らしい。客演陣の中では、ド渋なCAM THE WIZZARDが良い。ほのぼのとした表題曲”CAFETERIA FOOD”で、まさしく客演向きな特異なヴァリトン・ヴォイスを披露してくれる。

日本人なら誰もが気になるのが”LITTLE JAPANESE GIRL”だろう。タイトル通り、東京で出会ったカラオケ好きの女の子との楽しかった日々を回想する切ないラブ・ソングで、サムライだのキモノだのベタな日本描写も散見される奇妙な楽曲ではあるが、哀しげなアコギの旋律とフルート・ループが切なさを煽る名曲。FACTORの真骨頂だ。「彼女の名前をちゃんと発音出来なかったけど、男女の関係ってそういうもんじゃないだろ?」。

全曲を手掛けるのはFACTOR。物凄いペースと仕事量ではあるが、質は落ちるどころか充実していて、今がキャリアの絶頂期であると言ってもいい出来だ。特に本作は充実していて、IRA LEEの味わい深い語り口を最大限に活かす素晴らしい仕事を聴かせてくれる。ポッセ・カット”GHOST SUN”では、ヒップホップ・トラックの醍醐味であるヘビーなドラムが疾走する。

40分にも満たない長さではあるが、捨て曲無しの傑作アルバム。IRA LEEは、ソロとしてのキャリアを最高の形でスタートさせたと言えるし、FACTORにとっても代表作の一つになるだろう。傑作。