SUBTLE “FOR HERO : FOR FOOL”

「DOSE ONEは透明な存在である」という私の持論は、彼のソロ作品”HA”や”THE PELT”、”SLOW DEATH”を聴いていればなんとなくは納得できるはずだ。

「ヒップホップで他人と違うことをやる」というフロンティアスピリッツに溢れている点において、OUTKASTやMOS DEF、WHY?やSAGE FRANCIS、そしてDOSE ONEをひとくくりにすることは可能かもしれない。しかし、「ヒップホップ」の枠組みに自覚的な人は、自身の音楽ルーツに回帰することで自らのヒップホップ観を世間に提示するのがたいていのケースだが、「自身の音楽ルーツに回帰する」という点において、DOSE ONEはそのくくりからはみだす。

ソウルやロックに回帰していると断言できる上記の人たちに比べ、DOSE ONEの音楽ルーツはいささか不明確であり、また彼のいままでのプロジェクト(CLOUDDEAD、THEMSELVESそしてSUBTLE、その他諸々)をみても、それぞれの音楽性はまったく個別に隔てられる。DOSE ONEのソロ作では、彼の音楽観はナリを潜め、停滞する音にウタゴエがただよう「虚無のイメージ」が独自の個性になっている点を考えると、DOSE ONEは自らの音楽観をゼロに近づけることによって、各々のプロジェクトのコンセプト(様々に枝分れする実験)をダイレクトに打ち出しているのではないか。もっと言えば、それぞれのプロジェクトにおける「独自の音楽性」はDOSE ONEのものではなく、他メンバの音楽観によって成り立っているのではないか、と邪推できるのである。

私は”FOR HERO : FOR FOOL”のコンセプトを「UKセルアウト」と解釈している。

GNARLS BARKLEYからの影響をモロに感じさせる”A TALE OF APES Ⅰ”、”MIDAS GUTZ”、”THE MERCURY CRAZE”は2006年現在でこそ生まれ得る曲である。また、全体を通してGORILLAZ “DEMON DAYS”を10倍ポップにしたような本作の趣向は、DANGER MOUSEが大ウケする不健全国家UKでこそ万人に受け入れられるものだ。これはUKメジャーEMIからリリースされることも多分に関係していると思われるが、UKシーンにおける「DANGER MOUSEウケ」に目配せしたこの俗っぽいセンスこそ、2005年に”HA”をリリースしたDOSE ONEには決して出すことのできないものだと、やはり思うのである。

(微熱王子)